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カッコイイんだよね

 啓吾の襟首を掴み、ニコッと微笑む嵩原さん。僕は少し、嵩原さん恐怖症を発症しているかもしれない。腰から身震いがして止まらないんだもの。  僕たちは言われるがまま席に着き、お茶とお菓子を振る舞われる。さっき、藤さんと話してる時も沢山頂いたんだけどな。  落ち着いて見てみると、嵩原さんは性格こそサバサバしているものの、所作は女性らしい柔らかさがあり綺麗だ。紛うことなき美形で、目が合うだけでドキッとするのもわかる。  けれど、朔の方がカッコイイから僕は平気だ。決してトキメいたりはしない。  僕がまじまじと見ていたから、嵩原さんと目が合ってしまった。ほら、トキメくより恐怖が先に立つ。あんな事をされたんだもの、当然だ。 「あの時····。あそこでボクを襲えなかったのが、武居くんを好きな理由だよ」 「な、なに? 急に····」 「いやね、ずっと不思議そうな顔してたからさ。そうやって怯えられるのも悪くはないけど····ちょっと可哀想になってきてね。一度、きちんと説明しておこうかなと思って」  スラッと長い足を組んで、優雅に紅茶を啜る嵩原さん。そうだ、見惚れている場合じゃない。 「理由····よくわかんないんだけど」 「ははっ、武居くんらしいね。あのね、ボクは美しいしカッコイイから、どうしても周囲から浮くんだよ。誰も彼も容姿ばかりで、女は媚びてきて男は盛ってくる。女の子は可愛いから好きだけど、男は獣っぽくて嫌いなんだ」  嵩原さんは、皆をパッパッと見て言う。なんだかもう、ツッコむのがバカみたいに思えてきた。それに、嵩原さんには嵩原さんなりのコンプレックスや苦悩があるらしい。けれど、だ。 「それって、僕がヘタレだって事?」 「違うよ。ちゃんと見てる。そこが良いんだよ」  嵩原さんの言う事は、とても抽象的でわかりにくい。僕がお菓子を咥えて眉間に皺を寄せていると、八千代が代わりに話し始めた。 「分かってんならちょっかい出してんじゃねぇよ。俺らはテメェが女だから絞めてねぇって事、忘れんじゃねぇぞ」  八千代が嵩原さんを睨む。けれど、嵩原さんは八千代に対して一切動じない。 「ごめんね。初めていいなと思えた男の子だったから、ついつい手が出ちゃったんだ。武居くんも、ごめんね。ボクの“好き”は気にしなくていいよ。“気に入ってる”くらいのニュアンスだから」  その程度のニュアンスで手を出してしまうなんて、嵩原さんは軽い人なのだろうか。それとも、欲に忠実なだけ····って、同じか。  嵩原さんはまたもや自分の言いたい事を言うと、僕の気持ちなんて聞かずに僕たちを追い出した。藤さんの仕事が終わったようで、大好きなステーキを食べに行くからさっさと帰れと言われてしまった。なんて自由なんだ。  そして帰る間際、ツカツカと僕の前にやってきて、顎をクイッと持ち上げる。 「童貞(ハジメテ)、捨てたくなったらいつでも相手シてあげるから言ってね」  耳元で囁き、間近でウインクをされ、僕は驚きと恐怖で腰を抜かしてしまった。僕を真上から見下ろす嵩原さんが、目を細めてニヤッとやらしく笑む。  そうか、嵩原さんは面白いが最優先なんだ。そして、今僕は完全に揶揄わ(遊ば)れている。皆も、それに気づいていたから暴れないんだ。  状況を理解した僕は、ハムスターの様に頬を膨らませる。そして、嵩原さんにこう言ってやった。 「皆のお嫁さんなんだから、一生捨てないもん!」  嵩原さんだけでなく、皆も吹き出して笑う。何故なんだ。 「武居くん、それ男としていいの? 大事にとっておくの、すっごく可愛いけど心配になっちゃうよ」  お腹を抱えてん笑う嵩原さん。なんだ、笑うと王子じゃなくて女の子じゃないか。普通に可愛い。こんな一面を知れば、少しだけ怖さも和らぐ。 「嵩原さん····。僕ね、皆とずっと一緒に居るって決めてるの。藤さんの創ってくれる家で、皆と幸せになるの。だから、僕で遊ぶのはやめてね」 「ん、わかった。本当にごめんね。ふぅ····、初恋は実らないって本当なんだねぇ」 「え?」 「ねぇ武居くん、父さんの家は芸術なんだ。絶対に、君達の未来をより良く彩ってくれる。だから、完成を楽しみにしててね」  そう言って、またウインクをして僕たちを見送ってくれた。小さな声で“初恋”がどうのと言ったのが、本気だったのかはわからないままだ。  僕たちは八千代の家に向かう。道中、僕は皆にネチネチと文句を垂れながら。  どうして嵩原さんの魂胆を分かっていながら黙って見ていたのか。手を出した事に怒っていたのなら、弄ばれている僕を傍観していないで助けてほしかった。皆の対応が、僕まで試しているように思えて仕方ないんだ。  皆は黙って聞いてくれていたが、何も言ってはくれない。だから、僕は止まらなくなった口をフル稼働させて歩いた。    僕が一通りクレームを言い終えると、丁度八千代の家に着いた。相変わらず皆は黙ったままで、それでいて怒った様子でも反省している風でもない。  ぷんすこしながら靴を脱いで1歩足を踏み入れた途端、八千代に担ぎ上げられた。そして、部屋に入ったかと思えばベッドに放り投げられる。 「ひあぁっ」  もう、高い所からは投げないと言っていたのに。凄く怖かった。しかし、それ以上に八千代の怒気が怖かった。ついさっきまで、怒っている雰囲気なんて微塵も出していなかったのに。 「よくもまぁ好き放題言ってくれてたなぁ。今回の件、俺らの気持ち考えたか?」 「んぇ····うん。ヤキモチは妬いてたんだよね?」 「····ハァ。結人くんねぇ、そんだけじゃないでしょ?」 「えっと··僕の為に、色々····。でも、その····手と言うか口と言うか····さ、出されたんだよ? 嵩原さんが女の子だからって言うのは分かるけど、なんで何も言ってくれなかったの?」 「それは、お前が“男”だからだぞ。お前、童貞捨てたいって初めの頃ずっと言ってただろ」 「え? ····あ、言ってた」 「ゆいぴがね、どうしても童貞だけは捨てておきたいって言うなら······1回だけ我慢した方がいいのかなって言ってたんだよ。ほら、男だし気持ちが分かるだけにさ」 「どんだけ苦渋の決断か分かるか? 俺らがお前のそういうのを全部奪ってんだから、ひとつくらい····って、歯ァ食いしばってたんだよ」 「そ、そんな事····バカじゃないの? 僕、そんなのとっくに諦めてたのに。んふっ、皆バカだねぇ」  皆の渋そうな顔を見て、僕は思わず笑ってしまった。そんな事を考えていただなんて、あまりにも予想外だったんだもの。  どうしてそういう所だけ、皆揃って無駄に繊細なのだろう。なんだか面白いや。 「てめぇ、笑い事じゃねぇわ」  怒った八千代が僕に覆い被さる。首筋を吸いながら、片手で器用に服を脱がせてゆく。そして、鬱陶しいくらい何度も、耳元で溜め息を吐いている。  見かねたりっくんが、僕を奪って洗浄に連れ立つ。  りっくんだって、今回の事でストレスが溜まっていたんだ。解ぐし方がねちっこくて、そのままお風呂で2回犯された。  立っていられなくなり、八千代を呼んで回収してもらう。そして、ベッドに着くなり啓吾のをしゃぶり、八千代に後ろから犯される。朔のおちんちんを手で相手しながら、戻ってきたりっくんのを反対の手で扱く。  漸く、いつも通りだ。啓吾が僕の頭を抑え、喉に挿れる。りっくんが耳を弄り、朔に襟首を掴まれ興奮してしまう。八千代は、結腸をこじ開けて熱い精液を注ぐ。  優しさなんて二の次で、本能で僕を求めるえっち。皆の目が、捕食者のそれになっている。抗えなくなり、全てを差し出したくなる大好きな目だ。  僕は、皆のお嫁さんだ。さっき、嵩原さんに言った時、皆が目を逸らしてニヤケていたのを知っている。笑って誤魔化していたけれど、僕がそう言う発言をする度に照れてくれるんだ。  皆の想いが目に見えて安心する。これからも、きっとそれは変わらない。  何よりも僕を想い、僕の為に全力を尽くしてくれる。そして、時々変に気を遣いすぎてしまう。だけど本心は、僕を囲ってしまっておきたいくらい独占欲が強いんだ。  そんな皆に、ずっと好きでいてもらえるように頑張らなくちゃ。なんて、もう既にヘロヘロだけども。 「今日はもう時間ねぇからな。週末、また1日中抱いてやっから楽しみにしてろよ」  八千代が耳元で言いながら、僕から出てしまった。 「ん··やぁっ····デートもしたいよぉ」 「ん〜なら、たまには外で犯してやろっか。結人、そういうの興奮しちゃうもんなぁ」  啓吾のおちんちんの先をチロチロ舐めていると、失礼極まりない事を言われた。 「見られんのがいいなら、また神谷と猪瀬呼んで見せつけるか?」  朔は、素で言っているのが手に負えない。あんなの、滅多にあって(たま)るものか。 「いいねぇ。今度はもっと激しいの見せたいね」  りっくんが賛同する。そして、僕の膨れた頬を指でつつき、『冗談だよ』と言って笑う。今日も、安定の幸せ空間だ。

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