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お邪魔します
ぐしょぐしょになっていた全身を綺麗にしてもらい、朔とゆっくり湯船に浸かる。最中の激しさが嘘のように、穏やかでゆるっとしている朔。
「大畠は思い込みで突っ走るの、いい加減直さねぇとな。結人も災難だったな」
「ううん。僕の伝え方も中途半端だったから····。尾行に付き合わされた朔と八千代も大変だったよね。巻き込んでごめんね」
「結構面白かったから気にしなくていいぞ。まぁ、今回一番被害被 ってたのは莉久だな」
「あはは、そうだね」
朔にもたれ掛かり、心まで溶けそうなほどリラックスする。朔と2人きりだと凄く和む。これは朔だけの空気感だ。
「あっ!」
「おっ··、どうした?」
朔をビクッとさせてしまった。そして、思い出した内容がアレなので、口ごもってしまう。
「や、えっと、驚かせてごめんね。たいした事じゃないんだけど····。なんか泡立った··その····えっと、せ、精液を、ね、後で見せてくれるって····。けど、見てないなぁって······」
「あぁ、忘れてたな。あんなの、いつでも見せてやれるから気にしなくていいぞ」
「え、そうなの?」
なんだ、そういうものなのか。それなら焦る必要はないや。そろそろ帰らなくちゃいけないからと、少し慌ててしまった。
けど、啓吾の話だと、それを見るには皆に沢山出してもらって、いっぱい掻き混ぜてもらわなくちゃいけないんじゃないのかな。
····あれ? それってつまり······。まぁ、いいや。沢山気持ち良くシてもらえるのなら、あまり心配しなくてもいいかな。
考えるのを諦めた僕は、この空気に絆され本心を漏らしてしまった。あんまり言わないほうがいいと思ってたんだけど、さっき我儘を言った勢いで、もう少しだけ本音が溢れてしまったんだ。
「朔と八千代とね、学校で一緒に居れないの寂しいんだぁ」
僕は、朔の腕に頭を預けて言った。責めるつもりではなく、ただ素直な気持ちを聞いてほしかったんだと思う。けれど、言った相手が朔だから、凄く気にしちゃうんだよね。
「そうなのか? 大畠と莉久だけじゃ寂しいのか?」
「高校の時はずーっと皆一緒だったからかなぁ。揃ってないと変な感じなんだよね」
「そうか····」
「あ、違うよ! だからって四六時中離れないでとか、これ以上我儘言いたいんじゃないんだ」
困らせたいわけではない。ただ、朔と八千代と居ない時間が平気だとは思われたくなかった。
それを伝えると、朔は『そんな可愛い我儘で困るわけないだろ』と嬉しそうに笑った。
りっくんに髪を乾かしてもらい、朔と3人で帰路につく。2人は穏やかに見えるが、内心、今回の騒動を全面的に許したわけではなさそうだ。
りっくんが、僕の手を握ってブンブン振り回す。まるで、ご機嫌な啓吾のように。けれど、唇は尖っていて、とてもじゃないがご機嫌には見えない。
「ゆいぴは啓吾に甘いんだよ。あんなアホなのに」
「アホだからじゃないのか?」
「あぁ、諦めてる的な?」
「違うよぅ。勘違いだったんだし、ちゃんと謝ってくれるし、それに····」
「「それに?」」
「あんなに可愛く謝られたら怒れないよ····」
2人はゲンナリした顔で、特大の溜め息を吐いた。やはり僕は甘いのだと、朔にまで言われてしまった。
だけど、皆だって僕に甘いじゃないか。『おあいこでしょ』と言うと、2人は僕の頬にキスをした。
「お前は可愛いからいいんだ」
「愛されてるなぁって感じはするけどね」
で、なんで今キスをされたのだろう。まったく、外なのにな····。
かくして、初日から“僕離れ”は失敗に終わった······かのように思われた。
翌日、お昼ご飯を食べながら例の話をぶり返す。
「なぁ、昨日の話なんだったわけ? もうそれ辞めるんじゃなかった?」
「辞めるとは言ってないし、負けたとも言ってないでしょ。男の子とだったら遊んでおいでよって言ったじゃない。それにね······ほら!」
僕は、冬真から来たメッセージを、印籠の様に見せつけた。そこには、啓吾が遊ぶのを120%断ってくるという内容のメッセージが、長々と愚痴を添えて送られてきていたのだ。
「これね、結構前に来てたんだけど····え、なんで笑ってるの?」
文末までスクロールしたら、皆が笑い始めた。面白い事なんか書いてあったかな。
「ゆいぴ、返事····」
「返事?」
「お前、ンなダラダラ長文送りつけられて『だよね』だけって、神谷怒ってんじゃねぇか」
そうなのだ。文字を打つのが苦手だから、端的に共感したつもりだったのだが、“だけ!? ”から始まりクレーム同様のさらに長い文が送られてきたのだ。勿論、標的を僕に変えて。
「んでお前これ、返事してねぇのな」
「めんどくさくなっちゃって····。読んでる途中で寝ちゃったの。それから返事するの忘れてた····」
このメッセージが来たのは約半月前。そろそろ、猪瀬くんと共に突撃してくるんじゃないかな。
という予感は見事に的中した。
「ごめんな。止めたんだけど、久しぶりにお前らと遊びたいって聞かなくてさぁ····」
お昼過ぎ、ファミレスに呼び出され、席に着くなり猪瀬くんが疲れきった顔で言った。
きっと、一生懸命止めてくれたのだろう。冬真相手に、大変だっただろうな。
「いいよ。けど久しぶりって、先月会ったよね? 冬真、バイト始めたって言ってたし、忙しいんじゃないの?」
「結人が返事くれないからだろ。無視されたのショックだったんだけど〜」
冬真が面倒くさい絡み方をしてくる。啓吾はバイトに行って居ないし、八千代と朔はまだ学校だ。今日は、りっくんと2人で会いに来ている。
という事はだ。りっくんは、啓吾の様には助けてくれないから、冬真の相手は自分でしなくちゃならない。猪瀬くんも半ば諦めモードだし、仕方がないから黙って一通りの文句を聞く。
聞き終えたら、今度は僕が昨日の出来事を愚痴った。冬真は凄く笑っていたけど、猪瀬くんは同情してくれた。けど、無駄だからもうやめとけと2人にまで言われてしまった。
昨日の一件で心が折れかけているから、意地を張るのはやめようかと思っていたところではある。こうして、僕を交えてでも外と交流があるならいいのだ。夜にでも、“僕離れ”は一旦保留だと言ってみよう。
それはそうと、2人は関係を公にしていないから、よく女の子に声を掛けられるらしい。先輩風を吹かせるワケではないが、秘密にしている大変さはよく分かる。
その度に、冬真が妬かせてくるんだとか。呆れるくらい冬真らしい。なのに、猪瀬くんが仕返しをしたら、めちゃくちゃ妬いて抱き潰されたらしい。
(猪瀬くんも苦労してるんだなぁ····)
「なぁ、場野と瀬古は? まだ終わんねぇの?」
「今日はあと2コマあるって言ってたよ」
「ふーん。じゃーさ、いいトコ連れてってやろっか」
悪い顔で笑う冬真に連れてこられたのは、啓吾のバイト先だった。大通りから外れ、路地に入った所にある怪しげなお店。これって、変なお店じゃないよね?
「ね、ねぇ、急に来て大丈夫なの? 僕、来るの初めてなんだけど····」
と言うか、なんのお店なのかも知らない。入り口にカントリー風の置き物があって、地下に降りる階段には幾何学的な絵やお面なんかが飾ってある。暗めの照明で少し不気味な感じだ。ずっと、服屋さんで働いてるんだと思っていたんだけど、ここは一体何屋さんなのだろう。
「いーよいーよ。俺何回か来てるけど、この時間人少ねぇし。まぁ、人多いの見た事ないけど」
そう言って、冬真は軽やかに階段を降りてゆく。僕たちは冬真に続いて降りるが、正直怖い。雰囲気が闇の組織って感じだ。もしも危ない所だったら、啓吾を助けなきゃ。
僕は1人、息を巻いて薄暗い店内に足を踏み入れた。カランと玄関ベルが鳴る。すると、店の奥から聞き慣れた声が聞こえた。
「らっしゃいませー」
啓吾の声だ。気の抜けるような軽さ。大好きなその声に不安も和らぐ。
僕たちは、気づかれないように店の奥へと進む。入口付近には、カッコイイ雑貨が沢山並んでいて、売り物か分からないようなのもあった。奥には啓吾が着ているような派手めの服が沢山ある。いつも、ここで買っているのかな。
棚の隙間から覗くと、啓吾は服を畳んでいた。なんだか、啓吾の雰囲気がいつもと違う。いつもはぱっちり大きな目で笑顔を絶やさない啓吾が、伏し目がちで落ち着いていて、凄く大人っぽく見える。
「なぁ結人、なんでそんな赤くなってんの?」
冬真が小声で聞いてきた。僕も小声で答える。
「だって、なんか啓吾の雰囲気がね、いつもと違うんだもん。すっごくカッコイイ····」
僕は頬を持って、熱くなる顔を伏せた。
「あー、はいはい。惚気けてんねぇ」
「写真、撮ってもいいかな?」
「好きにすりゃいいんじゃね? お前の彼氏なんだし」
言葉にされると恥ずかしいや。とにかく、気づかれる前に写真を撮らなくちゃ。
もたもたカメラのアイコンを探していると、りっくんが起動するのを手伝ってくれる。横のボタンで起動できるのを、すっかり忘れていた。
僕はコソッと啓吾にレンズを向ける。バレないように····、よし────
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