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どうしたの、朔

 見るからに落ち込んでいる朔。僕が心配して見上げると、耳を垂らした仔犬のようにしょぼんとして見せた。 「わりぃ、理性ぶっ飛んでた····」  とても反省しているようだ。悪いのは、朔だけじゃないのに。 「ううん。受け入れたのは僕なんだし、朔があんな夢中で求めてくれるのが嬉しかったんだ。僕こそ、あの··声··我慢しきれなくてごめんね」  朔と啓吾が顔を見合わせる。どうやら、他にも気になる事があるらしい。 「俺も反省しなきゃなんだけどさ。それよか、結人めっちゃ見られてたよ。場野と莉久で見えてなかったと思うけど」 「女連れ込んでたのかって聞かれてイラついた」  焦ったんじゃなくてイラついたんだ。感情がバグってるのかな。騒がしくはなかったから、喧嘩には発展していないのだろうとは思うけれど····。 「なんて答えたんだよ」 「『んなわけねぇだろ』つったら··」 「『誤魔化さなくていいってぇ。めちゃ可愛い声聞こえたんだけど〜』だってさ」  啓吾が、棒読みで彼らを真似ていう。2人とも、たいそうご立腹らしい。 「で、女1人輪姦(まわ)してんだったら混ぜろって言われて····」  朔と啓吾が、また顔を見合わせる。一体、何をしたのだろう。 「ンで?」 「····朔がすげぇ威圧して黙らせちゃった☆」  濁してはいるが、軽い牽制というレベルではないのだろう。後で揉めなければいいが。 「手は出してないんだよね?」  りっくんが怖々と確認する。 「手は出してねぇ」 「ンなら問題ねぇだろ」  と、八千代は言うが、そういう問題ではない気がする。何も起きなければいいのだけれど。  なんてハプニングも旅行の醍醐味という事で、気を取り直して夕飯を楽しむ。正直、僕は温泉よりも夕飯のほうが楽しみだったのだ。  昨日、見せてもらったパンフレットに載っていた料理の数々に、僕の胸は高鳴っていたのだ。  机に並べられた豪勢な料理を前に、僕はペラペラと感想を語る。 「お前、飯食いに温泉来たんかよ。さっきとえらい違いだな」  そう言って微笑む八千代。はしゃぎ過ぎただろうかと、大きく息を吐いて落ち着く。僕だって、もっと大人っぽく振る舞うんだ。 「で? 結人はどれが1番気になってんの?」    ぱぁぁっと表情が晴れてゆくのを自覚した。僕に“大人っぽく”はまだ難しいらしい。ちょっと恥ずかしいけど、皆の優しさの甘えることにしよう。 「えっとね、これ! カニ味噌の··なんだっけ····でもね、説明聞いてて1番食べてみたいなって思ったの。あとね──」  僕は思う存分語り尽くし、皆は黙ってそれを聞いてくれていた。料理が冷めてしまうと勿体ないので、とても早口で頑張ったんだ。  さて、一息だけつき、いただきますと心を込めた。 「お前、いただきますっつぅ時の顔が1番幸せそうだな」 「······そ····そんな事ないもん」 「あっはは、タメなっげぇ〜」 「そんなゆいぴが好きでしょうがないんだけどね♡」 「待ってよ。1番は皆に好きって言う時だもん」  なんと恥ずかしい事を口走っているんだか。ムキになって本音を漏らしてしまった直後が、きっと1番恥ずかしい。 「後で失神するまで犯かしてやっから覚悟しとけ」 「のんびり身体癒しに来たはずなんだけどねぇ。ま、しょうがないよね」 「何言ってんだ莉久、結人抱いたら癒されるだろ。目的は果たせるから問題ねぇぞ」 「結人は癒されるか分かんねぇけどな〜」 「ゆいぴはヘトヘトになっちゃうもんねぇ」 「僕だって皆に抱いてもらったら癒されるもん!!」  あぁ、またやってしまった。皆に乗せられて、すぐムキになってしまうのは悪い癖だ。いつまでも子供っぽい所が凄く恥ずかしい。 「ふはっ、アホか。いいから食えよ。楽しみにしてたんだろ」  八千代がニマニマしながら、剥いた茹で蟹を食べさせてくれる。悔しいけれど、蟹の誘惑には勝てない。甘い匂いに顔が綻ぶ。 「うん! あー····っん〜〜♡ 美味しぃ····」  僕は、落ちそうなほっぺを持って、口の中でホロッと解けた蟹に舌鼓を打つ。 「カニにうっとりしやがって。どんだけ可愛いんだよ」  「んふふ、八千代(やひぉ)、バカらねぇ」 「てめ··、テキトーにディスってんじゃねぇぞ」  とか言いながら、次の蟹を剥いてくれている。いつだって八千代は、自分より僕の食事が優先だ。  たらふく食べた僕は、絶讃睡魔に襲われ激闘中である。 「ゆいぴ、寝ていいんだよ。もう限界でしょ?」 「やだ、寝にゃい····眠くない」 「目ぇ開いてねぇじゃん」 「眠てぇンなら寝ろ。しょーもねぇ意地張ってんじゃねぇぞ。そんで明日体調崩したらつまんねぇだろ」  八千代に担がれ、布団へと運ばれる。八千代の言う事は尤もだ。だが、夜はこれからなのに、寝ている場合ではない。  僕はジタバタと抵抗してみせる。ポコポコと、八千代の背中を叩く程度しか動けないが。 「やだぁ! 寝ないもん! おーろーしーてー!」 「子供かよ〜、めっちゃ可愛い」 「あぁ♡ ゆいぴが天使。俺らの理性が生きてるうちに寝てぇ」  啓吾はキュッと目を瞑って天井を仰ぎ、りっくんが顔を覆って転げ回っている。おバカだ。そして、朔の理性はご臨終したらしい。 「場野、結人寄越せ。寝ねぇつってんだからいいだろ。抱く」  なんて雄々しい顔で言うんだ。『抱く』が耳に届いた瞬間、下腹の辺りがキュンとして軽くイッてしまった。慌てて口を塞いで声を抑える。 「おー··、お前の理性が最弱かよ。まさかだわ」 「あぁ? ····さっき、中途半端だったからな。出してぇ」  朔が、八千代から僕を奪い取る。『出したい』だなんて、雄剥き出しのハァハァした顔で言われるとちょっと怖いや。  けど、僕だって途中だったんだ。苦しいのは分かる。  朔は、僕をお姫様抱っこしたまま胡座に収めた。そして、極甘のキスで口内を犯す。  必死に僕を貪る朔。余裕が無いのか、いつもより舌の絡め方が急いているように思う。それでも気持ちイイんだけどね。  息継ぎのタイミングを見計らい、朔に聞いてみる。 「おちんちん、苦しいんだよね?」 「ん? あぁ、苦しいな。お前のナカにぶち撒けてぇ」  耳に流し込まれる甘ったるい声。それだけで、トロッと先走りが滲む。 「僕もね、朔のザ··ザーメン、ナカにぶち撒けて欲しい、な··」  一生懸命、目を開けて朔を見上げる。朔は眉間に皺を寄せ、熱の篭った瞳で僕を見下ろす。この後、どうされてしまうのだろう。  期待と不安を孕んだ目で朔を見つめる。  朔が僕のアナルに指を挿れる寸前、りっくんと啓吾がそれを止めた。 「ねぇ、ゆいぴ寝ないんだったらさ、遊びに行かないの?」 「外の温泉巡りもしねぇの?」 「······は? このタイミングで言うか? なんなんだお前ら、ワザとか?」 「いや、さっくんがサカって始めようとするからよ? 俺らタイミング超悩んだんですけど」 「だってほら、ゆいぴが昼間さ、『射的したーい』とか言ってワクワクしてたでしょ? だから····いいのかなぁって。ゆいぴが遊ぶより抱かれたいんならいいんだけどね」  朔は暫く黙り、グッと何かを(こら)えて深呼吸する。 「····結人、どうする? 遊びに行くか、俺に抱かれるか、どっちがいい?」  と、僕の頬に手を添え、ジッと僕の目を見つめて聞く。選ばせる気があるのだろうか。 「朔に抱かれたい。遊ぶの明日でいいから、早く朔のおちんちん欲しいよぉ」  (たま)らず、朔に手を伸ばして抱きつく。 「だそうだ。お前らだけで遊びに行ってきてもいいぞ。俺が責任もって抱き潰しとくからな」 「ふっざけんなっつぅの! 誰が結人置いて行くかよ」 「マジそれな。ゆいぴが行かないのに行くわけないじゃん」 「おい朔、あんま調子こいてっと──」 「調子こいてっとなんだよ。暫く結人は渡さねぇぞ。もう寸止めは勘弁だ。とりあえず1回抱くから大人しく待ってろ」  何故だか朔がキレている。こんなに理性の壊れた朔は初めてかもしれない。ましてや、皆に喧嘩を吹っ掛けるような事、普段はしないんだけどな。 「どうしたの、朔。····怒ってる?」  僕の不安げな顔を見て、朔がハッと我を取り戻す。大きく息を吐いて、静かに話し始めた。 「わりぃ、大丈夫だ。怒ってるわけじゃねぇ。さっき寸止めだったから、ヤレると思ったら焦っちまった。····結人との旅行が楽しみすぎて、ここ数日ずっとテンションがおかしかったんだ。で、いざ来てみたら楽しくて····、浮かれすぎてたかもしれねぇ」  いつだって冷静沈着で、感情が表情(かお)に出にくい朔。隠していたとはいえ、朔のテンションがおかしい事にも気づけなかった。僕が、嫁として至らないんだ。  朔は、僕をりっくんに預けると、何も言わないまま半纏(はんてん)を羽織った。そして、ドアの前で立ち止まり、少し振り返って静かに言葉を落とす。 「お前らも、喧嘩売ったみたいで悪かったな。ちょっと頭冷やしてくる」  言い終えるなり、部屋を出ていこうとする。僕は慌てて駆け寄り、朔を引き止めた。 「朔待って! 行っちゃやだ」  腕を掴んで止めると、朔は困った顔をする。けれど、せっかく旅行へ来たのに、離れるなんて絶対嫌だ。 「ちょっと頭冷やしてくるだけだ。すぐに戻るから····」 「やだっ」  朔の腕にしがみついて言った。困らせているのかもしれないけれど、それでも、朔を1人にしたくないんだもん。力尽くで止めてみせるんだ。 「ゆいぴがヤダって言ってるんだしさ」 「俺らも気にしてねぇわ」 「さっさと抱いてあげれば? いっつも俺らのが勝手シてんだしさ。朔も好きにすりゃいーじゃん。んで、朔が1回抱いたら遊びに行けばいいんじゃね?」 「ま、そん時に俺らが我慢できたらだけどな」 「「それな〜」」  格好がつかず耳まで赤くする朔。覚悟を決めたのか、僕を抱えて布団へ戻る。  そんな朔が可愛くて、愛おしくて堪らない。僕は朔の首に腕を回し、夢中で朔の唇を食む。

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