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4日目の始まり

 ポリネシアンセックスを始めて4日目の朝。  寝苦しくて目が覚めた。僕の両脇には朔と啓吾が居て、僕に抱きついている。両手はそれぞれ、八千代とりっくんが握っていた。いつも通りの雑魚寝。  いつまで僕に構っていたのかは分からないが、皆はまだぐっすりだ。僕は身動きが取れないまま、皆の温もりに包まれてまた夢の中へ。  次に目が覚めると、僕はベッドにひとりぼっち····かと思いきや、僕の背中にりっくんが抱きついていた。 (んふ、大移動してる····ん? あ、良い匂い····)  僕の嗅覚はいつだって正しい。開け放たれたドアは、僕を誘うための布石。漂ってくるのは、啓吾がよくお昼に作ってくれる辛くない坦々麺の匂いだ。 「りっくん、りっくん、起きて?」  りっくんの手をぺしぺし叩いて起こす。 「んー····やだぁ」  りっくんは、ゴネて抱きしめる腕に力を込める。 「もー、おはようのちゅーできないから離して」  単純なりっくんだもの、即座に僕を離して半回転させた。 「んわぁっ! ····もう、ビックリするでしょ。へへ♡ おはよ」 「ん♡ おはよ」  甘ったるい朝だ。とても擽ったい。  りっくんと濃いめのおはようのキスを済ませて、2人でリビングへ向かう。  リビングでは、いつものエプロンだけを身にまとった啓吾が、鼻歌まじりでご陽気に調理をしていた。 「うっわ。啓吾の裸エプロンとか見苦しいんですけど。ゆいぴのは見たいけど」 「まーまーりっくん、全裸よりマシでしょ? あと、僕は絶対しないからね」 「お、はよー。もうできるから待っててなー。莉久の分は要らねぇよな」  菜箸をりっくんに向けて言い放つ啓吾。笑顔で怒っている。 「おはよう啓吾。今日も裸エプロン似合ってんね。早く出して。お腹空いた」  ゲンキンなりっくんは、僕の肩を抱いて席へと誘導する。『今日()』って、裸エプロンは初めて見た気がするんだけどな。  いつもは、パーカーを羽織っていたりズボンだけは履いてたりする。今日は面倒くさかったのかな。 「はは··、りっくんたらホント調子良いんだから。啓吾、おはよ。火傷しないように気をつけてね」 「ヨユーヨユ〜。って··あ、場野! めっちゃいいトコに来んじゃん。ヨーグルトとってー」 「あ? ンなもん自分でとれや」  廊下を通り掛かった八千代に、しれっと頼み事をする啓吾。八千代は、文句を言いながらも取ってあげる。  八千代から投げ渡されたヨーグルトを、啓吾は僕の分の坦々麺にだけ忍ばせた。辛くなかったのは、これのおかげだったのかな。 「八千代、おはよ」 「おぉ、はよ」  僕の横に立ち、腰をかがめてキスをくれる八千代。なんだか、おはようのキスが日に日に濃くなっていってる気がするんだけど、気の所為かな····。 「ゆっくり寝れたか?」 「実はね、皆が起きる前に1回目が覚めてね──」  僕は、皆に囲まれていた安心感と心地良さを語り、二度寝してしまった事を謝った。  たまには僕が先に起きて、朝食を作ったりしたいんだけどな。そんな事、抱かれなかった次の朝くらいしかできないから、極々稀にしかチャンスはないのだ。けど、今朝はまぁ、仕方ないよね。 「そう言えば朔は?」 「あぁ、朔パパから呼び出しくらってた。なんか仕事でトラブってるから来てくれって。んで、超絶不機嫌で向かった」 「寝起きにあの顔見たら流石にビビったわ。あれ絶対親父にキレかかってんぞ、オモロ。けどアイツ、身内以外にはしれっとすんだよな。1回仕事手伝いン行ったけど、誰だお前ってくらい別人みたいだったわ」  そうなんだ、見てみたいな。なんて、お仕事の邪魔になるだろうから言えないけど。 「そう言えばそうだよね。あんっなに寝起き悪いのに、外ではそういうの見せないように頑張ってる感じあるし。誰にでも当たり散らす場野とは大違いだよねぇ」 「さっくんは大人だねぇ」 「もー、そんな風に言ったら八千代がぷんすこしちゃうよ?」 「ぷんすこしねぇわ。俺ァ大人だからな」  あからさまに朔への対抗心を剥き出しにする、子供っぽい八千代。ふんぞり返って椅子の背もたれに肘をかけている、態度の悪い大人じゃないか。なんて、火に油を注ぐような事は言わない。  りっくんと啓吾は、『アホらし··』と顔に浮かべて無視をした。僕は、面倒にならないよう八千代を持ち上げ、下手くそに話を逸らす。 「そうだよね、八千代も大人だよね。いつもすっごく頼りにしてるよ。あ、そうだ、もうすぐ坦々麺できるんだって。お腹空いたな〜」  言った直後に、坦々麺ができあがった。僕の分を持って、啓吾がキスと一緒に届けてくれる。 「お前ら、自分の分は自分で取りに行けよ」 「えーっ、ケチ〜」 「ハンッ、みみっちぃな」  暴言と同時に立ち上がる八千代とりっくん。我儘が過ぎると、次回から自分の分が用意されなくなる事を知っているのだ。 「僕だって自分の分は取りに行くのに····」 「結人はいいの! 俺がキス付きで持ってきたかったの〜」  そう言って、また僕を甘やかすんだから。  それぞれ、しっかり辛そうな坦々麺を前に、揃って手を合わせる。 「「「「いただきます」」」」  毎回思うけど、僕のだけ色が全然違うんだよね。盛り付けも、野菜たっぷりで豪華だし、3玉使用の重量級で別の食べ物みたい。そもそも、僕だけ器のサイズが違う。  皆のはチンゲン菜と白髪葱が乗っているだけで、まさの普通の坦々麺。量も普通。ここまで差があると、なんだか面白くなってくる。 「ん? どったの結人、めっちゃニコニコして。あ〜可愛い♡」 「んふっ、あのね、僕だけ大食いチャレンジみたいだなーって」 「ふはっ、確かにな。普通家に無いサイズの器だわ。実家で酒盛りする時に並んでた大皿みてぇ」  八千代の実家と言えば、組の暇な人達が20人くらい集まって、夜な夜などんちゃん騒ぎをしていたらしい。  ドンパチってやつはやらなかったのかな。平和そうで何よりだけど。 「それさ、琴華さんが結構前にね『八千代の愚痴とかいくらでも言いに来なさい。毎晩誰かが宴会してるから聞いてくれるわよ』って言ってたんだよね。1回行ってみたいなぁ」 「グフッ····ンだそれ、聞いてねぇぞ」  そりゃそうだ、言ってないのだから。言ったらダメだったかな。  けれど、これと言って愚痴なんてない。ただ、遊びに行ってみたいと思ってただけなんだ。しかし、八千代は少し機嫌を損ねてしまった。 「お前、俺に不満とかあんのか」 「「不満だらけだろ」」  りっくんと啓吾が声を揃える。 「偉そうだし横暴だし暴君だし、ねぇ?」  って、全部一緒じゃないのかな。 「自己中だし口煩いし結人と朔の言うことしか聞かねぇし、なぁ?」  りっくんと啓吾は目配せを交わす。啓吾のこれは、実体験に基づいた苦情だ。 「あ゙? そりゃテメェらの不満だろうが」 「僕は別に不満なんてないよ。ただ····」 「“ただ”なんだよ、言ってみろ」 「ほーら、その威圧感! ゆいぴが怯えちゃうだろ」 「あはは、大丈夫だよりっくん。八千代のこんなのに怯えてたら一緒に居れないよ」  僕は笑い飛ばしたけれど、八千代はバツの悪そうな顔で後ろ頭を掻く。 「“ただ”ね、八千代のお家の人達とお喋りしに行きたいなって。八千代の昔の話とかも聞いてみたいし」  組人達は、八千代にとって家族なのだと聞いた。それなら、僕はもっと知りたい。  それに、僕しか知らない今の八千代を、少しだけお裾分けしたいんだ。なんて、これは傲慢だろうか。 「絶対行かさねぇ」  目の据わった八千代が、僕をジトッと睨みつけてくる。八千代の鋭い視線はちょっと怖いけど、その向こう側に隠している照れと焦りが見えてしまい、僕に可愛いという感情を込み上げさせた。  とりあえず行かない、そう言ったけれど、八千代には内緒で行ってしまおうと思う。朔を連れて行けば、そこまで怒られないだろう。  このポリネシアンセックス(チャレンジ)が終われば、もうすぐ夏本番。朔と八千代の仕事が落ち着いたら、これでもかってくらい沢山遊ぶつもりらしい。すっごく楽しみだ。  けど、その前にまず、この挑戦にケリをつけなければ。僕たちは朔が帰るのを待ち、4日目の夜を迎えるのだった。  今日からは、おちんちんやアナルへの軽い愛撫、性感帯への本格的な刺激が許される。もうシてるけどね。  イクのはダメだから、もちろん寸止め地獄が待ち受けているのだろう。これまでとは違って、本気で寸止めしてくるだろうから、目玉が溶けてしまうくらい泣く覚悟をしておかないとだ。 (はぁ····。寸止めかぁ····憂鬱だなぁ·····。あっ!! そうだ! んへへ、いい事思いついちゃった♡)

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