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波乱の幕開け
歩けると言ったのに、八千代が僕をお姫様抱っこしてテントへ運ぶ。そりゃ眠くてフラフラしてるけどさ、八千代がえっちなキスをしたのが1番の原因なんだぞ。なんて文句は今更言わない。
気持ち良いとフワフワしてぼーっとしちゃうの、どうにかならないかなとは思っている。そういえば、お酒を飲んだ時もこんなだったかもしれない。気持ちイイけど、なんだか変な感じなんだよね。
「星、凄かったな〜。あんないっぱい流れ星見たん初めてだわ」
啓吾が、缶ジュースを開けながら言う。冬真は『俺も〜』と言いながらポテチの袋を開けた。どうやら、寝るつもりはないらしい。
かく言う僕だって、身体が疼いて眠れそうにない。言うまでもなく、八千代の所為だ。そして、猪瀬くんも僕と同じらしい。
星を眺めながら、冬真に肩を抱き寄せられた猪瀬くん。恐らく、死角になる所で何処かを弄られていたのだろう。もじもじして冬真に擦り寄っているのを見たんだ。
そんな僕と猪瀬くんの事情など知らん顔で、皆はトランプに興じている。それはともかく、なんだか雲行きが怪しい。
ババ抜きで珍しく僕が勝ち、バカみたいに喜んでいた時だった。啓吾と冬真が、罰ゲーム付きのポーカーをしようと言い出したのだ。
(僕、弱いからどうせ勝てっこないんだけどな····)
僕はあまり乗り気になれず、とりあえず罰ゲームについて尋ねてみる。
「罰ゲームって何するの? い、痛い事とかじゃないよね?」
「結人に痛 ぇ事しても罰ゲームにならないだろ。結人には羞恥攻めですらご褒美だもんな」
なんて、朔が王子スマイルを見せて言うんだ。失礼極まりないな。
「え··えっちの時に痛い事されるのは気持ちぃけど、そうじゃない時は普通に痛いよ? デコピンとかさ、そういうのは気持ちくないもん」
僕は、ドヤ顔で変態じゃないんだと訴えた。それなのに、りっくんが僕を抱き締めて耳元で意地悪を言う。
「痛い事されて気持ちくなっちゃうド変態で淫乱な結人が好きだよ。ね、お尻ペンペンしてあげようか?」
「ひぁぁっ··シ、シてくらしゃい····」
「んっふふ♡ ゆいぴにはこういう罰ゲームが待ってるんだよ。今の、予行演習ね」
唇に人差し指を当て、僕を黙らせるかのようにウィンクを飛ばした。いたずらっ子なりっくんだ。
「····っ!!? りっくんのバカァっ!」
意地悪されたうえに、えっちな事はシてもらえないんだ。なんて残酷なんだろう。
唇を尖らせた僕の機嫌をとろうと、りっくんが僕の頬に唇を這わせて甘える。こんな事したって、暫くツンとしてやるんだから。
けど、これだって罰ゲームになるのか怪しいんだけどな。あわあわしてる僕を見て楽しむのだろうか。そうだとしたら皆、なんて意地が悪いんだ。
かくして開催されることになった、ポーカー大会の罰ゲーム内容はこうだ。
僕か猪瀬くんが最下位だった場合、甘い言葉責めを受ける。僕と猪瀬くん以外は、普通の罰ゲームをランダムで選出するアプリで決めて実行するらしい。
抗う間もなく始まるポーカー。そもそも、あんまりルール知らないんだよね。
「ねぇ、ポーカーって何が1番強いの?」
「マジか。結人はそっからかぁ····」
冬真が、カードと睨めっこしながら言う。
「武居は皆と一緒にトランプしないの? 皆しょっちゅうやってるくない?」
「僕はあんまり参加しないよ。どうせ負けちゃうし、ルールもよく知らないのが多くて····」
「俺らのトランプって基本、次ヤる順番とか決めんのにやってるかんな。まぁ、順番待ちの暇つぶしってのもあるけど」
「あー、ね。お前らさ、結人ともそういう遊びしてやれよ? どーせヤッてばっかなんだろ」
冬真に言われ、図星すぎた皆は黙ってしまう。
僕が進んで参加したがらないのが1番の原因なんだと言うと、なぜだか冬真は不満そうに納得した。
りっくんからポーカーの強い順番を教えてもらった僕は、要らない手札を捨て山札から必要な枚数をとる。こ、これは····
「ねぇ八千代、これって何?」
手札に残ったのが教えられた役ではなかったので、隣の八千代にコソッと聞いてみた。すると、八千代はフッと笑って『それブタっつぅんだよ』と教えてくれた。
どうやら、役なしという事らしい。こんなもんだよねと思いつつ、皆が手札を明かしていくのを見て愕然とする。
僕の次に弱い猪瀬くんですら、ストレートなんだもん。もう、僕に勝つ余地なんてないんだ。
「俺の勝ちだな」
と、ストレートフラッシュで勝ちを決めた朔が、最下位の僕に言った。
「結人、来い」
朔に呼びつけられ、僕は両手を広げて待っていた朔の膝に乗る。自ら耳を朔の口元に寄せ、これから甘い甘い罰を受けるんだ。
僕を抱き締め、項から耳へスルッと指を這わせる朔。これだけで、どうにかなっちゃいそうだよ。
「お前、なんでそんなに弱いんだ? 耳も、乳首も、ケツも、全部弱すぎて心配だな。はぁ··、俺らがちゃんと守ってやんねぇとな、奥さん」
「ひっ、ひゃぁぁっ♡♡ 朔 っ、朔 のばかぁ! おおおっ、奥しゃんって言わないれぇ····」
意図して静かな低い声で、ドロッドロに蕩けそうな甘くねっちょりした話し方で、僕のお尻を柔らかく掴み軽く揉んで、脳を溶かしてしまうように囁いた朔。
こんなの、1回でキャパオーバーだよ!!
こんな事が5回も続いた。身体はどんどん熱くなるし、負け続けた悔しさで泣きそう。
癇癪を起こしそうになった僕は、風に当たりたいと言って八千代と一緒にテントを出た。
八千代に手を繋がれて、ゆっくり湖へ向かって歩く。
「罰ゲーム、キチィか?」
「キチィなんてもんじゃないよ! 1回目の朔ので限界だったよ」
「ふはっ、早くねぇ? んじゃ俺ん時は?」
「ずっと泣いちゃいそうなの我慢してた····」
「もっかい言ってやろっか?」
「もういいよぉ····」
八千代の時は特に酷かった。僕を後ろから抱き締め、耳を軽く食みながら首を絞めるように手を添えて囁かれたんだ。
いつもより低くゆっくり『俺のガキ、孕みてぇか』って、硬くなったモノをお尻に押しつけながら。
涙を堪えるのに集中しすぎて、口は素直に『孕 みたいれすぅ』なんて言っちゃった。正直、あれが1番逃げ出したい瞬間だったんだよね。
「孕めるんなら孕みたいよ。····ばぁか」
僕がボソッと漏らした本音を、八千代は拾えずに聞き返してきた。絶対に教えてあげないけどね。
しつこく聞いてくる八千代から逃げようと、僕は走り出した。サンダルに荒い砂が入ってきてめちゃくちゃ痛い。
痛みでバランスを崩し転びそうになった僕を、八千代が拾い上げるように抱き留 めてくれた。
「アホ、危ねぇだろ。ンな暗 ぇのに走ってんじゃねぇぞ」
「んへへっ、ごめんね。受け止めてくれてありがと」
そう言って振り向いた時、八千代の背後に影が見えた。なんだろう、目の錯覚かな。
って思ったんだけど、八千代が僕を抱えたまま回し蹴りしちゃうから、僕の身体がふわっと浮いて、気づいたら八千代に抱えられていた。ズシャッと、何かが砂場に叩きつけられたような音だけが耳に残る。何が起こったのだろう。
状況を把握する間もなく、また八千代の背後から、今度は棒の様な物を振り下ろしてきた。
八千代はそれを腕で受け止めて、容赦なく蹴り飛ばしてしまう。凄い飛んでったんだけど、大丈夫かな。
確認する為、八千代が体勢を整えようとした時、八千代は僕の背後に何かを見たらしく、僕に覆いかぶさって庇ってくれた。ドガッと鈍い音が聞こえ、一瞬にして血の気が引くのを感じた。
そして、僕に『逃げろ』と言って、八千代が力無く倒れてしまった。
「八千代ぉっ!!」
僕は、倒れてしまった八千代を背に、震えながら暴漢に立ち向かう。両手を広げて『やめろ!』って叫んだんだ。その瞬間、頭にゴッと衝撃が走り、身体から力が抜けて倒れたらしい。
薄れてゆく視界に、テントから飛び出してきた朔が見えた。何か叫んでいるみたいだけど、よく聞こえないや。
けれど、朔を見て安心した僕は、ふわっと意識を手放してしまった。
頭に走った痛みと、ギャハハという下品な笑い声で、僕は静かに目を覚ました。薄らと瞼を持ち上げてみる。
知らない部屋に居る。ここは何処だろう。見知らぬ男の人が4人、お酒を飲んでるみたいだ。部屋にお酒の臭いが充満していて、気分が悪くなるくらい臭い。
その所為なのだろうか、身体が凄く熱いのは。何故だかお尻がきゅんきゅんしている。なんだか身体が変だ。
僕が目を覚ましたことに気づいた1人が寄ってくる。お酒に負けないくらいタバコ臭い。
でも、何処かで嗅いだことのある臭いだ。ちょっと懐かしさを感じる。僕の周りに、タバコを吸う人なんて居ないんだけどな。
「起きた? お前男なんね。予定外だけど、可愛いからオッケーっつゥことになっちゃった。ごめんねぇ〜」
そう言って、男は僕にキスをしてお酒を流し込んできた。あぁ、僕のファーストキスなのに····。
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