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甘い極刑
俯く僕の顎を、指でクイと持ち上げる八千代。僕を見つめるその瞳は、いつだって何より愛おしいものを見るようで輝いて見える。
言葉を選んでいるような沈黙が妙に心地良いのは、八千代のこの優しい瞳の所為なのだろう。
「お前が不安になんのは多分、何も出来てねぇって思うからだろ。ったく、できてねぇわけねぇのに何回言っても分かんねぇのな。ンっとアホだよな」
言葉と裏腹に、八千代は僕を愛おしそうに抱き締める。愛すべきアホということなのだろうか。
「お前が俺らんコト引っ張ってっから、俺らはこ っ ち の 道 選んでこれたっつぅのによ。自分がどんだけデケェことしてっか分かってねぇんがお前らしいわ」
こっちの道ってなんだろう。八千代の回りくどい言い方をするクセは健在だ。
もっと僕でも分かるような言い回しをしてほしいのだけれど、これが八千代なりの精一杯なのだろう。照れ隠し、ということにしておこう。
「だなぁ。結人の為って言いながら、結果俺ら自身も良い方向にこれてんだもんな。愛ってすげぇ〜」
ケラケラと笑う啓吾。僕のおかげなのだと、いつも皆言うけれど、僕はやっぱり何もしてないんだよね。
それなのに、僕が凄い事をしてるみたいに言われて恐縮しちゃう。堂々巡りなのはこの所為なんだろうな。
「それよかお前なぁ····俺の持ち物 お前からのプレゼントばっかになってんだけどよぅ、ほとんど同じ色じゃねぇ?」
言われてみれば、八千代をイメージして渡したものといえば青か黒が多い。
「そういえばそうだね。んへへ、八千代のイメージで買ってたらそういう色ばっかりになっちゃった」
「俺のイメージどうなってんだよ」
「えっとね、クールでカッコイイ····と、最近は穏やかだなぁって」
「穏····やか······」
僕の言葉に最速で反応したのはりっくんだった。八千代を穏やかだと言う僕の言葉が受け入れられなかったのだろう。この世の終わりみたいな顔をしている。
確かに、りっくんと八千代は高校生の頃から······いや、出会った瞬間から喧嘩ばっかりしてるもんね。だから穏やかだなんてイメージが湧かないのだろう。
今でこそ少し落ち着いたけれど、未だに飽きもせずくだらないことで言い合いできるんだもの。逆に凄いや。
でも、犬猿の仲とはいえ、そこまで仲が悪いわけじゃないんだよね····たぶん。未だによく分からない2人だ。
「確かに場野は年々落ち着いてきてるな。莉久も、結人と場野が関わらなかったら大人しいのに····」
「家では本性出しまくりだよな。学校じゃまだ猫かぶってる感あるけど」
「本性さらけだしてメリットなんかあるわけないでしょ? 啓吾だって外だと家よりうぇ〜いって感じじゃん」
確かに、啓吾が同じセミの人といる時はいつもよりチャラ男っぽく見える。ていうか、一緒にいる人たちがチャラ男感凄いんだよね。
大学に入ってから別行動することが増え、交友関係に口を出すこともないから、新しい友達のことはあまり知らない。自分の課題や実習とかで忙しかったから意識してこなかったけど、改めて考えたら気になってきた。
今度、さりげなく聞いてみようかな。それより今は、もっと気になることがある。
「ねぇ、八千代が20歳 になったってことは、お酒解禁でしょ?」
「それな。半年前の俺マジ余計なコト言ったわ〜」
「いいじゃねぇか。場野だけ飲めないのも可哀想だろ」
「いやいや、場野は絶対飲むじゃん。ていうか、俺らの中で1番未成年には見えないんだから。ゆいぴなんて多分一生年確されるよ」
おじいちゃんになっても年確されると思っているのだろうか。りっくんの中で、僕のおじいちゃん像はどうなっているのだろう。
「それもそうだな」
朔はどっちに共感したのかな。もう、めんどくさいからツッコまないけど。
「そ、それでね、ずっと気になってたんだけど······」
「どした?」
裸にマフラー姿の変態チックな八千代が、僕の頬に手を添えて優しく聞いてくれる。真面目な質問をするつもりなんだから、笑わせないでほしいんだけどな。
「皆、これから友達と飲みにに行ったりするんだよね。飲み会とか合コンとか····」
「いやいやいや、合コンは行かねぇよ!?」
「ウソだ! 人数合わせとかって口車に乗せられて行くんだよ。そういうの見たことあるもん」
「ドコで何見たんだよ····。マジでさ、誘われても行かねぇよ?」
「まぁ啓吾が行きそうなのは俺も同感だね。俺は絶っっっ対行かないけど」
そう、啓吾は行きそうなのだ。八千代とりっくんは地球がひっくり返っても行かないだろうけど。
あとは朔。騙されて連れて行かれちゃいそうなんだよね。心配だ。
「えぇ〜····マジで行かねぇって。ホントにホント! 約束すっから信じろよ」
啓吾が僕の指先にキスをして誓う。僕も大概チョロいんだ。ここまでされたら信じるしかないじゃないか。
「わ、分かったから····」
僕をまっすぐ見上げてくるキリッとした瞳が刺さる。啓吾の大きくてキラキラした目がカッコよすぎて直視できない。
合コンの話はさて置いて、友達と飲みに行ったりはするだろう。それは別に構わない。問題は、僕が行ってもいいのかってこと。
まぁ、ダメだって即答されそうだから、あえて聞かないでおこうと思ってるんだけどね。冬真と猪瀬くん以外に誘われることもないだろうし、取り留めて聞く必要もないよね。
「ンじゃ、この話はここまでだな。続きすんぞ」
僕があげたマフラーで、僕の両手を縛る八千代。ゆるゆるで今にも解けそうだ。
だけど、縛 ら れ た からには自力で解くことはできない。精神的な緊縛だ。ロープでギチギチに縛られるよりもドキドキする。
「俺 の モ ン って感じ、ヤベェな。最高に唆るわ。つぅか、こっちが本命のプレゼントだよな?」
「へ? ぅ、あ····ひゃい♡ 僕がプレゼントだよ。えっと、いっぱい食べてね?」
「ン゙ッ····アホかお前。骨まで全部しゃぶり尽くしてやっかんな。覚悟しろよ」
僕を抱き上げ、耳元で言う八千代。八千代なら骨までガリガリ食べちゃいそうだな····なんて思ってしまった。
僕がバカなことを考えている隙に、八千代は僕のナカをいっぱいにする。これじゃ、食べてるのは僕のほうだ。
「八千代のおちんちん····食べてるの僕だよ?」
「····っ、ったく! ぁんでお前はそうやって煽り続けんだよ。明日飲むから優しくしてやろうと思ってたのによぅ、もう加減しねぇからな。明日出掛けるまで犯す」
今からおよそ18時間····これは、甘い死刑宣告なのだろうか。恐怖とキュンキュンで身体がおかしな反応をする。
「ハッ····期待してイッてんじゃねぇぞ、ド淫乱が」
「イぅ、イッったの? わかんな····ひぅっ、あぐっ····奥、強 ぃぃ!!」
「加減しねぇつったろ。毎日毎日エロく成長しやがって····俺らンほうが心配だっつぅのに」
「んぇ? にゃに? よく聞こえに゙ゃぁッ!!」
「聞かんでいいわ。お前が可愛すぎて心配だつってんの。一生俺らだけのモンにしとく苦労っつぅのがあんだよ。お前は黙 って縛られとけ」
上機嫌な八千代は饒舌だ。不思議なもので、言葉は聞き取れているのに頭が回っていないせいで全く理解できない。
だけど、八千代から僕への愛が溢れていることは分かる。それだけで充分だと思えるほど、僕は今八千代に溺れている。それがとても心地良い。
今年も良い誕生日を迎えられたね。そんな気持ちでいっぱいだ。このあと、八千代が中心となって本当に18時間犯されるだなんて、この時の僕は思ってなかったんだもん。
皆、相変わらずの精力オバケだよね。もう二度と煽らないように気をつけようと思った夜だった。
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