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お酒って凄いね

 八千代の誕生日、それは外での飲酒が解禁された日。僕たちは琴華さんのお店で誕生日パーティーをした。  それを啓吾から聞き、面倒くささマックスで家にまで乗り込んできたのは、インターホン鬼連打魔の冬真だ。袋いっぱいのお酒と呆れ顔の猪瀬くんを携えてやってきた。  来て早々缶ビールをプシュッと開け、我が物顔でソファを陣取った冬真。あの日、誘われなかったことを根に持っているらしい。 「あのっさぁ〜、俺ね、お前らとはそこそこ仲良い友達だと思ってんの。なんなら一緒に住んでも楽しいんじゃないかな〜って思うくらいさ、お前らと近いと思ってんの。もうさ、いっそアレ、親戚感覚なんだよね」 「なぁ駿哉····冬真(アレ)もう酔ってんの?」 「酔ってはないんだけど、啓吾から飲みに行った話聞いてからずっとこうなんだよね。面倒くさすぎて手に負えなくなってさ、直接愚痴らせた方が早いかなって思ったら来るの止められなかった。マジでごめん」  申し訳なさそうに困り眉で手を合わせて謝る猪瀬くん。相当厄介だったんだろうなと想像がつく。 「えっと····冬真、誘わなくてごめんね? あのね、僕たち初めて外で飲むから、なんて言うか····特別な日でね、か、家族で過ごしたいなって思って······」  僕の言葉に感極まれりな皆。目頭を押さえたり、明後日の方を向いてみたり、それぞれに僕の発言を噛み締めている。 「ほらね、冬真の我儘ばっかり通らないんだよ。いい加減機嫌直して普通に『一緒に飲も』って言えば?」  猪瀬くんが冬真の膨らんだ頬をつつくと、冬真は尖らせた唇を解く。そして、ふんと鼻を鳴らした。 「······分かった。とりあえず朝まで飲もうぜ! てかどっか飲みに行きたいんだけど」 「あんだけ酒持ってきたくせにィ!? うちのでっかい冷蔵庫の3分の1占めてますけどぉ?」  啓吾が叫んだ。猪瀬くんは困ったように笑い、まぁまぁと啓吾を宥める。相変わらず、猪瀬くんは冬真に甘いんだよね。 「あれはまた今度飲みに来るから置いといて」 「うへぇ〜マジめんどくせぇ····つぅか冬真ってここまでめんどくさかったっけ?」  啓吾が猪瀬くんの肩に肘を掛け、項垂れつつ猪瀬くんを見上げて言った。 「俺が甘やかしすぎたのかも····。冬真が拗ねるの可愛くてさ、できる限り我儘きいてたらこうなっちゃったんだよね」  やっぱりそうだったんだ。猪瀬くんが上手に甘やかすから、冬真が素をさらけ出せているんだよね。愛だなぁ。 「お前の所為かよ。はぁ······つか惚気けに来られてもなんだよな〜····」 「いいじゃん! いーっつもお前らのデロッデロのノロケ聞かされてんだからお互い様だろ」  やいのやいのとマシンガンのように飛び交う会話。僕は入っていけないので身支度を始める。 「で、どこ行く? つぅかここらへん居酒屋あんまなくない? なぁ〜、どっかイイトコないの?」 「飲むから車も出せないしね」  猪瀬くんはそう言って腕を組み、悩ましげな表情を見せる。その頬をつつきながら、冬真も同じように頭をひねっている。 「んじゃ琴華さんとこ行こうぜ?」  軽く言う啓吾にりっくんが噛み付く。 「行ったとこだし予約してないんだけど? 流石に迷惑すぎでしょ」  けれど、八千代が『別にいいんじゃね?』と軽く返したものだから、冬真と啓吾がバカみたいなハイテンションで歓喜していた。  僕たちは電車でお店に向かう。道中、八千代が琴華さんに連絡して席を確保してくれた。  電車の中なので、静かにガッツポーズをする啓吾と冬真。年末も近いからか激混みの車内で、だ。静かなガッツポーズでさえ、りっくんと猪瀬くんに注意される始末。2人はシュンとして見せたが、すぐに顔を見合わせてニヤついていた。  そんな2人を可愛いと思って見ているのは、きっと僕と猪瀬くんだけなのだろう。  お店に到着すると、順番待ちしている人たちを横目に入店する八千代。扉を開けたら大柄なイケメンとぶつかりそうになった。 「おっと····」 「ぉ····さーせん」 「いやいや、こちらこそ」  相手は紳士的な人で、咄嗟に後ろへ手を差し出し、スマートにお連れさんを庇った。見ず知らずの人だけど、見惚れちゃうくらいのカッコ良さだ。  真面目で大人しそうな男性と、僕たちと同い年くらいのヤンチャな頭の男の子。凄く距離が近いと思ったら、後ろの2人は手を繋いでいた。 (わぁ····カップルかな。なんか可愛いなぁ)  僕が皆と手を繋いで歩いていると、弟にしか見られないから羨ましい。  なんて思っていると、八千代も僕を庇うように手を伸ばして道を譲った。こういうの、皆さらっとしてくれるのがカッコよくて好きだ。僕だとこんなスマートにはできないんだもん。 「どうも」  そう言って横を通るその男性が、じとっと僕を見下ろす。八千代より背は低いけれど、180cmはゆうに超えている。威圧感があるからなのか、雰囲気が少し怖い人だ。  そして、僕と目が合うとウインクをした。····なんでだ? 「あ゙?」  八千代が凄む。空気がピリッと凍りつき、瞬時に一触即発な空気をまとう。 「ちょ、奏斗さん!」  後ろの大人しそうな人が、真っ白なスーツの裾を掴み彼の注意をひいた。今にも泣き出しそうな顔をしていて、なんだか親近感がわく。 「ん、あぁ、ごめんごめん」  紳士的だと思っていたその人の表情が、一瞬にして雄へと変わった。そして、振り向き頬に手を添えて言う。 「君みたいに震えてる彼が可愛らしかったから、つい······ほら、妬かないで、零。俺は零しか見えてないから」  僕たちを無視して甘ったるい雰囲気で包み込む。婀娜婀娜(あだあだ)しいとはまさにって感じですっごくえっちだ。  だけど、それ後ろで見ていた彼が、グイと手を引いて甘い世界から引き戻す。 「零さんは俺しか見えてねぇっつの。つぅかさっさと進めよ! 他のお客さんに迷惑だろ、バ奏斗」 「んっふ、芯····ホント煽るの好きだねぇ」 「あ、あの! 奏斗さん、他の方に迷惑でしょうし、とりあえず行きましょう。ね?」 「ン····そうだね、零。早くイキたいよね」  そう言って、スッと腰を抱き寄せた。彼らのやり取りはずっと色めいていて、見せられているこっちがドキドキしてしまう。  そのまま、僕たちが見えていないかのように賑やかしく夜の街にへ消えていった3人。芯と呼ばれていた男の子は、雰囲気がどこか啓吾に似ているなと思った。けどアレは、()()じゃなくて高校生の頃の子供っぽい啓吾だ。懐かしいやと思ったら笑みがこぼれた。  それにしても、彼らはどういう関係なのだろう。飛び交う辛辣な言葉のわりに、仲は良さそうだったな····。  ダメだダメだ。見ず知らずの人たちのことを詮索するのは良くないよね。 「ンだよ。あぁいうの好きなんか?」  八千代が僕の腰をグイッと抱き寄せる。奏斗さんと呼ばれていた人のことを言っているのだろうか。  確かに雰囲気は良かったし相当なイケメンさんだったけど、ちょっと怖かったんだよね。そもそも皆以外に恋愛感情は欠片も湧かない。  そう説明すると、八千代は満足そうに僕の肩を抱いて店の中へ入った。その勝ち誇った顔を見て、琴華さんがにんまりと笑う。どうやら一部始終を見ていたらしい。 「ンだよババァ」 「こら! 八千代、ダメでしょ」  僕が注意すると八千代はうぐって顔を見せる。それを見て、琴華さんがまた笑う。 「チッ····さっさと案内しろよ」 「んふふ♡ 八千代、愛されてるわねぇ〜」 「うっせぇ!」  僕が八千代を制してお礼を伝える。毎度の事ながら、突然無理を言うから申し訳ないんだもん。  すると、琴華さんは僕たち全員へ視線を配って「来てくれてありがとう」と嬉しそうに言った。  そして、八千代のお誕生日会リターンズが始まる。飲めや食えやと、僕にお酒とお肉を回してくる冬真。あんまり飲むと皆が心配しちゃうんだけど、今日は楽しいからもう少し飲めそうだ。  僕は、本日2杯目のカシスオレンジに口をつける。 「おい、ペース早いんじゃないか?」 「ジュース感覚で飲んだらやべぇよ?」  朔と啓吾が何か言っている。けど、脳ミソがプカプカ浮いてるみたいで気持ちイイから『大丈夫だよ〜』とテキトーに返す。  僕は八千代にもたれ掛かり、心地良さに身を委ねてグビッと2口目へ······。  この間はカシスオレンジを1杯しか飲ませてもらえなかったから、少し物足りなかったんだ。とは言うものの、どうやって帰ったのか記憶が曖昧だし、気づいたらヤリ部屋で朔のを喉奥で咥えててビックリしたんだけどね。 「手遅れだろコレ」  優しい手つきで僕の髪をふわふわ弄っている八千代がため息混じりに言う。なんだか擽ったいような気持ちイイような····で、思わず甘い声が漏れてしまった。 「ン····もっと撫でて」  素直に心をさらけ出せるのは、きっとお酒パワーなんだろうな。普段ならこんなに素直に求めることなんてできないんだもん。  そんなことを思いながら、僕は八千代の股間にそっと手を伸ばした。

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