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再会は嵐の如く

 八千代の手に力がこもる。本気で声を少しも漏らさせないつもりなんだ。同時に、啓吾は微塵も容赦するつもりがないんだと察する。  啓吾がイク為のピストンをやめることはなく、丁度解し終えた結腸でおちんちんを扱き始めた。 「んっは♡ 結人焦ったらめっちゃ締まるよな。これマジでやべぇ····出る」  啓吾は最奥におちんちんをねじ込んで射精する。お腹が熱い。  出し切ってズルンと勢いよく抜いたら、啓吾は素早く僕の服を整えてくれた。ぐちょぐちょのままで凄く気持ち悪いんだけど、今はどうすることもできない。  その直後、トントンとノックが響いた。待ってくれてたのかなってくらいタイミングがよすぎる。  人数分のドリンクを持って来た店員さんは、煙ににおいが混じっていたのだろか、まだ息の荒い僕をジッと見る。僕は、ヨタっと八千代の肩に寄り掛かって顔を隠した。    店員さんが扉を閉めると、僕は啓吾に文句を言う。 「啓吾のバカぁ。激しすぎるよぉ····」 「でも気持ちかっただろ? 結人、スリルあんの大好きだもんな。なんなら見られたかったんじゃね?」  そう言いながら、届いたばかりの冷たい水をくれる。僕はそれを受け取らずに、ふいっと顔を背けた。 「そ····そんなわけないれしょ······」  ふーんと言って僕をジトッと見る。そのえっちな目で見るの、ホントにやめてほしいんだけどな。  僕はもごもごと口ごもってカシスオレンジのほうに口をつける。 「ンじゃ、そのひねくれた口も下の口みたいに素直にさせてやろっか」  迫ってきた八千代が、顎をクイッと持ち上げて言った。お酒を飲むといつもより饒舌になる八千代。えっちなときしか言わないような甘いセリフもしれっと吐いてくれる。 「ったく、親の店でよくヤれるよね」  嫌味ったらしく言うりっくん。傾けたグラスの中でカランと氷が鳴る。シンとして空気がピリついた瞬間だった。  途端に悪いことをしている気分になり、僕は八千代をそっと押し返した。 「そ、そうらよね。こんなとこでシちゃ、だめらよね····」  罪悪感が押し寄せ、涙が込み上げてくる。ふわふわしているからか涙腺がゆるゆるだ。  ぽろぽろ零れ始めた涙。八千代がそれをおしぼりで優しく拭いてくれる。 「わーっ! ゆいぴを責めてるわけじゃないんだよ?! バカな啓吾と場野が悪いんだって! ゆいぴはどこでも俺らの手で気持ち良くなってくれたら良いんだからね。だから泣かないでぇ」  慌てふためいているりっくん。その慌てっぷりが面白くて、少しだけ涙が引っ込んだ。 「あーあ、りっくんがゆいぴ泣かせた~」  揶揄うように言った冬真の顔面めがけて、りっくんはなかなかの勢いでおしぼりを投げつけた。文句を垂れる冬真。それを無視してすくっと立ち上がり僕のもとへやってきた。  八千代から僕の顎を奪い、りっくんは低めの声を響かせる。えっちな声で甘いセリフを並べ立てて、僕をまたきゅんきゅんさせるんだ。 「俺だって今すぐここでゆいぴのコト犯したいよ。ねぇ、席替えしよっか。俺が隣なら、もっと甘くてとろとろにシてあげるよ? もっとバレるかバレないかってスリルも味わわせてあげるけど····どうする? 席替えする?」 「しゅるぅ····」 「「はぁ!?」」  八千代と啓吾が声を揃え、口々に反論し始めた。聞く耳を持たないりっくんは、お構いなしにそのまま僕の唇を奪う。舌を差し込んできて、長期戦になるキスが始まった。  残りの注文品を持って、すぐに店員さんがくるかもしれないのに。それに、席替えはどうするのだろう。  いくつか浮かんでいた疑問は、絡み合う甘い舌と吐息の熱に消えていく。きっと、りっくんの舌に残ったサワーの所為だ。僕が平気なように、カルピスサワーにしてくれたのかな。何がとは言わないけど、優しい味がする。  キスに意識を委ねていたら、トントンとノックが聞こえた。「失礼しまーす」と軽い挨拶が聞こえる。どこかで聞いた声な気がするんだけどな····。  店員さんの視線がこちらへ向く前に、そっと唇が離れた。  僕の腰を抱いたままのりっくんは、何事もなかったかのように僕の口へキュウリの塩漬けを運ぶ。もっと他に誤魔化し方はなかったのだろうか。 「お待たせしました。上ハラミと厚切り塩タンと····」 「あれ? 香上(かがみ)じゃん」  品物を受け取っていた啓吾が懐かしい顔に驚く。 「うわ、お前らかよ····」 「お前さぁ、客に『うわ』はなしっしょ。ダメよ? ちゃんと愛想良くしなきゃ」  啓吾が接客について語る。啓吾から僕へ視線を移した香上くんは、何か察したようで少し唇を尖らせた。 「こんなトコでイチャついてる奴はロクな客じゃねぇんだよ。つぅか店間違えてんじゃね? とっととラブホにでも行けよ」  そう言いながら、乱暴に品物をテーブルへ置いていく。皆があまりにブーイングを飛ばすものだから可哀想になってきた。 「香上くん、騒がしくしてごめんね。あと、えっと、え、えっちなことはシないから、もうちょっと食べていってもいいかな?」   「ン····武居は相変わらず可愛····真面目なのな。飯食うんだったらいいけど····てかお前ら学生の身でこんな高級店来れるとか金持ちかよ。クッソ、腹立つなぁ····」 「るせぇな。ほっとけや」  八千代がふてぶてしく返す。昔のことを根に持っているのか、相変わらず香上くんに対して冷たい。  あの時、皆がめいっぱいお灸をすえてくれたから、僕はもう気にしてないんだけどな。それに、アレ以降は僕たちの味方になってくれたこともあるくらいなんだ。もっと仲良くしてもいいんじゃないのかな。  そう思った僕は、八千代に『失礼だよ』と()()をした。  押し黙る八千代を見て香上くんが笑う。 「お前らホント相変わらずだな。大学でも色々噂になってんのは知ってたけど、実際見るの久しぶりだもんな。なんか懐かしいわ」  大学が同じな香上くん。だけど、学部が違うからまったく関わることはない。  なんなら同じ学校なのも忘れていたくらいだ。だから、懐かしいのは僕も同感だった。 「んへへ、なら香上くんも今度一緒に飲もうよ。なんだか同窓会みたいで楽しそうだよね」  僕のこの一言がまた面倒を起こすきっかけになるなんて、この時は誰も予想していなかった。 「同窓会かぁ····いいじゃん。俺、実は同窓会委員なんだよ。だからほとんどのヤツと連絡取れるぜ。よし、やるかぁ」  こうしてやる気になった香上くんが、年明け早々に同窓会を開催すると宣言して戻っていった。僕たちはポカンとその背中を見送ったのだった。 「なんか····嵐みたいだったね」  猪瀬くんがぽろっと零すかのように言った。それにいち早く答えるのは冬真だ。 「なー。でも同窓会は楽しみじゃね?」 「でもさ、俺ら全員クラス揃ってた事ないでしょ? どの学年でやるかによって参加できるできないが出てくるよ」  冬真に続いて僕と啓吾も今気づいたって顔で固まる。それについて話していたら、さらに追加の品物を持って香上くんがまた来てくれた。  なので、今挙がっている問題を提示してみる。 「だったら学年でやればよくね? 規模はデカくなるけど、そのほうが楽しそうだし」  なんて、軽く言ってのける香上くん。それもそうだと、冬真と啓吾が便乗する。  たしかに、それなら皆で一緒に参加できるものね。久しぶりに会える人たちを思い浮かべて、僕は早くもワクワクしていた。  完全に酔いがさめた僕は、りっくんの甘い誘惑を必死に躱した。だって、香上くんに言われたことがずっと頭を巡っていて、集中できなかったんだもの。  冬真が『結人が酔いつぶれんの楽しみにしてたのになぁ』と言って猪瀬くんに怒られていた。  だけど、やっぱりまだ飲み足りないと言って、ちょっとおしゃれな立ち飲み屋さんに寄ったんだ。そこで僕と猪瀬くんはしこたま飲まされて、歩けなくなったからタクシーで帰宅。  そのまま僕たちはヤリ部屋へ連れ込まれ、翌日の夕方まで解放してもらえなかったんだけど、いつもの事過ぎるから割愛するね。  それよりも僕は、皆と同窓会へ行くのが楽しみだなぁ。

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