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同窓会は戦場
年が明けて数日。初詣や挨拶を終え、ようやくゆっくり過ごせる日。おやつを食べながらまったりした時間を過ごしていた。
のんびりしているのはいつものことなんだけど、皆があまりにも触れないものだから、間近に迫った同窓会の話を僕から持ち出してみる。
「あのね、同窓会なんだけどさ····」
もしも行っちゃダメとか言われたらどうしよう。色々あったし皆のことだから言いかねないもんな。
なんて考え出したらキリがなかった。だけど、モヤモヤしてても仕方ないもんね。
「俺ぁ行かねぇぞ。結人以外に興味ねぇ。集られんのもうぜぇしな」
「え?」
八千代の予想外な発言に驚く。そして、それに続くりっくん。
「俺もパス。ゆいぴ以外の人ってあんま覚えてないし」
「えぇ?」
僕の行くところはどこにでもついて来たがるりっくんなのに。どうしたのだろう。
「俺はその日、昼から仕事だから行けない。まぁ、結人以外に会いたい奴なんかいねぇから別に問題ねぇけどな」
まさか3人が行かないだなんて。予想外の展開にしょんぼりしてしまう。
「え····、そ、そっか······そうなんだ。啓吾は? 行く?」
「行く行く。俺、こいつらと違って友達いっぱいよ? 会いたいヤツとかも結構いるし」
それを聞いて安心した。啓吾まで行かないなんて言いだしたら、必然的に僕も行けなくなっちゃうもんね。
「そっか! よかったぁ。1人だったら行けないかなぁって思ってたんだ」
「ンじゃ俺と2人で参加な~」
啓吾が僕の肩を抱いて言った。まるで、皆へあてつけるように。
すると、ソファに深く背中を預けていたりっくんが、おもむろに立ち上がってこっちを見た。そして、小さな溜め息を吐いて言う。
「やっぱ俺も行くよ。もし啓吾がゆいぴから離れたらぼっちになっちゃうじゃん」
「ぼ、ぼっちじゃないもん! 話せる人くらい········まぁ、りっくんが行きたいなら行けばいいんじゃないかな」
すっと視線を逃がして言った。香上くん以外に話せる人が思いつかなかったわけじゃない。僕だって、友達の一人や二人くらいいるもん。今はちょっと思い出せないだけなんだから。
結局、八千代は寒いし怠いと言って行く気にならなかった。朔はどうしても仕事の都合がつかなかったらしい。しょうがないよね。
僕はりっくんと啓吾に連れられて同窓会が行われるホテルへ向かう。
「久しぶりに会う奴ら多いしワクワクすんね」
「啓吾は友達いっぱいだもんね。今日は僕のこと気にしないで楽しんでね?」
「ん、ありがと。そんじゃ、今日だけは莉久に任せちゃおっかな」
「ゆいぴは俺がしーっかり守っとくから気にしなくていいよ。消えてたらごめんだけど」
「は? 抜ける時はちゃんと言えよな! ビックリすんだろ」
「俺とゆいぴがセットで抜けたらそ う い う コ ト に決まってんだろ」
りっくんが僕の肩を抱いて言う。
「りっくん、そういうコトって?」
「あはは、なんでもないよ。あ、ほらぁ時間! 始まっちゃうから急ごうね~」
りっくんは僕の手を引いて足を速めた。置いてけぼりにされるものかと追いかけてくる啓吾。2人がやいやい騒がしいまま、僕たちは会場に入った。
会場には知っている顔がたくさん。だけど、皆すごく大人っぽくなっている。
「お、啓吾じゃん! 久しぶり~」
早速、僕の知らない人たちにつかまった啓吾は、あっという間に友達の輪へ飲み込まれていった。到着してたった数十秒の出来事で、僕は呆気にとられて行ってらっしゃいも言えなかった。
予想していたのになんだか寂しいのは僕の我儘。りっくんの袖をキュッと握り、複雑な心境を噛み締める。
そこへやってきたのは香上くんだ。僕たちを見つけて駆けてきた。
「おっせぇじゃん! って、あれ····2人だけ?」
僕に代わってりっくんが事情を話す。どうやら、僕と香上くんをあまり喋らせたくないようだ。
なんなら僕を背中に隠してるみたいだし、警戒を解く気はないらしい。
りっくんの臨戦態勢は解けないまま、執拗に絡んでくる香上くんと話していたら女子が群がってきた。ハッとして見たら、既に啓吾が囲まれている。
困り顔で周りの男子に助けを求めているけれど、羨ましがる男子たちは助けずに放置している。僕が助けに行けたらいいんだけど、あっという間に女子が僕たちを包囲しているし、前方には行く手を阻むように香上くんが立っていて動けない。
「ったく、これだから····ほんっとウザい」
りっくんはブツクサ言いながら面倒臭そうに女の子たちをあしらう。けれど、香上くんが好意的に返すものだからなかなか離れてくれない。どうやら、女の子たちは僕との関係がまだ続いているのか探っているようだ。
一緒に来たんだから、そういうことだって察してほしいんだけどな。ついつい頬が膨らむ。
このキラキラ輝く女の子たちの中に、りっくんの元カノもいるのかな····。なんて頭に過った瞬間、胸がチクンと痛んだ。あぁ、りっくんが来たがらなかった理由はこれだ。そう直感した。
僕はりっくんの服をキュッと握る。それと同時に、僕を押し潰しそうなほどの勢いで女の子が詰め寄ってきた。すると、りっくんは僕を守るようにグィッと抱き寄せた。
「悪いけど俺、結人のものだから触んないで。あと、俺の結人に触んな」
キレ気味のりっくんに女子たちが驚く。この騒ぎに乗じて、啓吾も僕のもとへ戻ってきた。
「はいはーい、通してね~。莉久さぁ、何しれっと俺のモノ宣言してんだよ。俺 ら の だろ」
反対側から、啓吾が僕の腰を抱く。おかげで完全に注目の的だ。
女子から殺意のこもった視線が刺さる。そんな気がして顔を上げられない。男子は上位イケメンが僕に夢中で歓喜している。そりゃ強敵が減るんだもの、万々歳だよね。
男女の温度差で風邪を引いちゃいそうな空気の中、僕はお構いなしな2人に手を引かれて食事へ。ビュッフェ形式なのであれもこれもと僕のお皿に盛る2人。どんどん食べる僕を、なぜか香上くんが隣でずっと眺めている。
「なに?」
堪りかねて訊ねると、香上くんは僕に飲み物を差し出した。
「別に。よく食うなぁって思ってさ。武居の食いっぷり見てっと気持ちぃわ。ほら、飲み物も飲まねぇと喉詰めんぞ」
「····ありがと」
「あのさぁ、なんで香上がゆいぴに飲み物渡すの? そういうの俺らがするからしゃしゃんないでくれる?」
てんこ盛りの料理が乗ったお皿を両手に持って、りっくんが不機嫌を剥き出しで突っかかる。
「ごめんごめん、わかったからンな睨むなって」
「つぅかお前なんでずっと俺らといんの? どっか行けよ」
啓吾もりっくん同様に冷たい。2人の冷ややかな視線が香上くんに突き刺さる。
その目にゾクゾクしちゃうんだけど、こんなこと言ったら香上くんに変態だと思われちゃうよね。バレないようにしなくちゃ。
冷静になろうと、僕は香上くんからもらった水を一気に飲み干す。そしたら、視界がグラッと歪んだ。
(あぇ? なんか揺れてる····)
コトッとグラスを置くと、身体に力が入らなくなった。ここでようやく自分の異変に気づく。
(ふわふわするんだけど····熱? 特にしんどいとかないんだけどな。そういえば、香上くんにもらったお水、変わった味だったけど····まさかだよね)
余計なコトは気にせず料理を楽しむ。賑やかな雰囲気だとご飯がより美味しいんだよね。ていうか、本当にここのご飯が美味しいから、食べる手が少しも止まらないんだ。
僕は、やいやい文句ばかりが飛び交っている3人の空間を無視して食べ続ける。
「あ~、ほら! 武居の皿もう空じゃん。お前ら武居についててやれよ。俺がテキトーに飯取ってくるからさ」
「だからさぁ、なんで香上がそういうコトしようとしようとすんの? 何、ゆいぴのコト好きなの? 絶対許さないから」
「お前だけはマジでないわ。敵になんなくても仲間じゃねぇの。お前が結人にシたコトってそういうコトだかんね」
2人とも、香上くんのこと全然許してなかったんだ。僕はもう、友達になれたと思ってたんだけどな。
「きゅうり····お漬物食べたい」
「「へ?」」
香上くんをイジめないであげてって言いたかったんだけど、なぜだか食べたいものをリクエストしちゃった。
「きゅうり····の漬物? そんなのあったかな······。とりあえず探してくるから待っててね。なかったら買ってくるから任せて!」
「いや、持ち込みはダメだろ。ってちょ、おい莉久!?」
啓吾の言葉など耳に届かず、りっくんはさっさときゅうりを探しに行ってしまった。
しばらくしても戻らないりっくん。本当にきゅうりを買いに行ったんじゃないかと、啓吾が渋々様子を見に行く。
「武居は相変わらず愛されてんねぇ。ま、こんなに可愛いんじゃしょうがねぇか」
テーブルに肩肘をつき、僕を覗き込むようにして言った。それから、僕の髪を指でさらい耳に掛ける。
「ンッ····な、なに?」
思わず耳を隠して身構える。
2人が居なくなった途端に触れられて驚いたんだ。だって、香上くんの僕を見つめる目が、ちょっとだけえっちなんだもん。
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