442 / 443

賑やかな時間も

 ドタドタと騒々しい足音が近づいてくる。見るまでもなく、啓吾が元気に走ってきているんだ。 「なぁぁぁ! なんで誰も飯食いに来ねぇの? 冷めちゃうじゃん!」  そうだ、啓吾がお昼ご飯を作ってくれてるんだった。あんまりにも穏やかな時間で、お腹の虫さえ騒がないから忘れていた。 「ごめんね、啓吾。すぐ行くよ」  そう言って立ち上がろうとしたんだけど、まだ少しだけヨタってしまう。もたもたと立ち上がると、反対側から来ていたりっくんに『クマさんみたいだね』って言われた。きっと、キグルミみたいだって言いたいんだろうな。ていうか、また目がハートになってる。  朔と八千代を押し退けて、僕の手を引いてくれるりっくん。しっかり引っ張って、ついでに抱き締めてくれた。 「フラフラのゆいぴも可愛いけど、危ないから俺がリビングまで抱っこしてあげるね」  否応なく、りっくんは僕をお姫様抱っこする。皆からのブーイングなんて、ひとつも耳に入ってないみたいだ。  リビングから香ばしい匂いが漂っている。僕のおでこに頬を摺り寄せていたりっくんは、匂いが鼻に届いた瞬間、何か言いたげな顔で眉間に皺を寄せた。   「啓吾、何作ったんだよ」 「え、なんでキレてんの?」 「俺、今日バイトあるって言ったよな?」 「······あっ!!」  どうやら、今日のお昼はガーリックライスらしい。にんにくの香りが廊下にまで充満している。濃いめなのだろう。  そして、どうやら啓吾はりっくんがバイトなのを忘れていたらしい。しまったって顔が可愛いのなんの······って、言ってる場合じゃなさそうだね。  りっくんは、僕をそっと降ろして席に着かせると、ツラツラツラツラっと啓吾に文句を並べ始めた。よく回る舌だなぁと感心しつつ、朔がよそってくれたガーリックライスを食べ始める。  すっごく美味しいけど、確かにこの濃さだとバイトへ行くのは躊躇っちゃうよね。結局、りっくんは自分だけ別でお昼を用意して食べた。  こんなの、日常茶飯事だから誰も気にしない。むしろ恒例行事みたいなものだから、ひと悶着ないと静かすぎるくらいだ。  この家で本当に静かなのは、おそらく朔だけ。自覚はないみたいだけど。 「なぁ、このあとどっか行かねぇ? 最近さ、ずーっと家でヤッてるだけじゃん?」 「俺は別に、ずっと結人と居れたらどこで何してても──」 「そりゃそうなんだけど! さっくんズルいって! 俺だってそうだけどさ、たまにはどっか行きたいじゃん? つぅか結人をどっか連れてって楽しませてあげたいじゃん?」 「それはそうだな。結人、どっか行きたいとこあるか?」    王子スマイルで聞いてくる朔。啓吾が隣で、なんだか悔しそうな顔をしている。俺が聞こうと思ってたのにって顔だ。 「うーん、そうだなぁ····」 「どこでもいいけどよぅ、このにんにく臭で行く気かよ」  八千代の一言に、僕と啓吾は『あっ』と声を揃えた。 「いっそさ、テロっちゃう?」 「どういうこと? テロって、そんなの····」 「映画館とかでさ、一斉にはぁぁぁってすんの。ヤバくねぇ?」  おバカな啓吾。いたずらっ子みたいな顔をして楽しそうだ。 「なぁ。ガラス細工とかやったら、ガラスがにんにく臭くなったりすんのかな」  朔が真面目な顔で言う。思わず全員が吹き出してしまった。 「お前、素でアホなこと言うんやめろ」  むせながら八千代が文句を垂れる。 「わりぃ。気になっちまって····」 「普通にカフェ行くだけでも十分テロでしょ。気づいてないかもしんないけど、すんっごいにんにく臭してるからね?」  りっくんが食器を片しながら言う。そっか、そろそろバイトに行かなくちゃなんだ。  さっさと準備を済ませてバイトに行ってしまったりっくん。残った僕たちは、お出かけの計画を立てる。  けれど、やっぱりこの臭いじゃどこに行っても迷惑だよねってことで、自重することにした。意気揚々とガーリックライスを作った啓吾が、後悔して落ち込んでいる。 「啓吾、また今度お出かけしようね」 「うん····」 「じゃぁ今日は、その計画立てるのはどう?」 「えっちシちゃいそう····」 「え、えっちもすればいいでしょ」 「でも結人、最近えっち激しすぎるって····」 「それは······もう! 好きにしていいから元気出してよぉ····」  唇を尖らせて言ったら、元気になった啓吾にキスされた。もしかして、騙されたのかな。 「っしゃ! デートの計画立ててすんっげぇ激しいえっちもして今日を満喫するぞーっ!」 「おー」  なぜか乗り気な朔。啓吾に合わせて拳を高らかと突き上げた。  隣で見ていた八千代も、好き放題ヤれんのは悪くねぇなって感じで笑みを浮かべている。 「えっと、それじゃ()()()デートの計画練ろっか」  そう言うと、八千代がたじろぐ僕を抱き上げて、ヤリ部屋へ向かって歩き始めた。お出かけスポットやデートスポットが乗った雑誌を、両手に抱えた啓吾と朔がついてくる。  はぁ····この調子だと、デートの計画をちゃんと練れるのか怪しいや。  僕たちの最近はこんな感じ。静かな時間も賑やかな時間も、僕たちらしくて幸せだ。

ともだちにシェアしよう!