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甘くて賑やかなキッチン
早朝の中庭。クローバーにのる朝露がキラキラしている。
皆はまだ、ヤリ部屋で雑魚寝したまま。起こさないようにそっと抜け出してきた。
僕だけ早起きなのには理由がある。今日は、満 さんと2人であるものを作る約束をしてるんだ。
インターホンが鳴って、皆がぞろぞろと起きてくる。
満さんも一緒に朝食を食べて、僕は満さんと2人でキッチンにこもった。皆はしばらく立ち入り禁止だ。
「さぁ結人くん、腕によりをかけて作るわよ」
「が、頑張ります!」
「や~だ~、緊張しないの。こういうのは気楽に作るものよ。愛情さえ込めれば、きっと上手くいくから大丈夫」
「はい。満さんも、渡したい人がいるんですよね?」
「えぇ。あなたたちを見てたら、アタシも頑張っちゃおっかなーって思えたの」
とても柔らかい笑みを浮かべて、愛おしそうな顔でチョコを手に取る満さん。なんだか幸せそうだ。
そう、今日は2月13日。明日のために、満さんと一緒にチョコを作るんだ。
「トリフ····トリ、トル····ト、リュフ、ですよね。難しそうだな····って、満さん?」
「ンッ····結人くん、相変わらず可愛いわねぇ。食べちゃいたくなるわ♡」
「んぇ····食べないでください」
「んふ♡ わかってるわよ。そんなことしたら朔に嫌われちゃうものね」
満さんはウインクを飛ばして言った。慣れた手つきでエプロンを着け、材料の準備を始めていく。
満さんがチョコを刻んでくれている間に、僕は生クリームを火にかけて沸騰しないよう見張る。沸騰しちゃうとダメらしい。
「あ、そうだ。このあとすぐ、桜華もくるからね。一緒に作りたいんだって」
「え!? 桜華さんが?」
もしかして、桜華さんも渡したい人がいるのだろうか。なんだかワクワクしてきた。
と思っていたらインターホンが鳴った。
「あ、言ってたら来たんじゃない?」
「僕、お出迎えしてきます!」
ぱたぱたと玄関へ走ると、既に八千代が対応していた。
「なんでテメェまで来んだよ」
「お姉様に向かってその口の利き方はなによ。コレ、渡さなくてもいいんだけど?」
桜華さんは小さな紙袋を持ち上げて言った。なんだろう、洋服が入ってそうなサイズだけど、何か頼んでたのかな。
「チッ····入れよ」
紙袋を受け取り、振り返った八千代が僕を見て驚く。
「うぉ····ビビったぁ····」
「あ、ごめんね。えっと····それ、服?」
チラリと紙袋に視線を落として聞く。中身を見せたくないのか、八千代は紙袋をほんの少し後ろへ下げた。
「あー、まぁ、そうだな。服っちゃ服。あとで見せてやっから楽しみにしとけ」
そう言って、八千代は僕の頭をポンポンした。まったく、いつもポンポンで誤魔化せると思ってるんだから。
まぁ、変なものじゃないみたいだし、まんまと誤魔化されてあげるんだけどね。それよりも、今はお客様のお出迎えをしないとだった。
「桜華さん、おはようございます。お待たせしちゃってごめんなさい」
「結人くん、おはよう。いいのよ~、朝から甘々の弟見させてもらったんだから。それより、突然押しかけちゃってごめんなさいね」
温かい笑顔を見せてくれた桜華さん。満さんといい、相変わらずのブラコンぶりだ。
「そんな! 来てくれて嬉しいです。今、満さんが下準備してくれてて、僕も········あっ!」
生クリームを火にかけっぱなしだった!
僕は事情を話しながら、桜華さんを連れてキッチンへ走る。めちゃくちゃ笑ってる桜華さん。恥ずかしいけど、そんなことを言ってる場合じゃないや。
キッチンに駆け込んだ僕は、慌ててコンロのスイッチに指をかける。けど、火は既に消えていた。満さんが消してくれたんだ。
「も~、結人くん! 火、つけっぱなしで行ったら危ないでしょ」
「ご、ごめんなさい」
「朔から聞いてはいたけど、本当にそそっかしい わね」
ん?
今、注意されてたんだよね?
「アタシもよく聞かされるわ。八千代から時々パシられるんだけど、いつもついでに惚気られるのよね。結人くんのドジっ子話で」
僕がドジを踏んだ話で惚気って、八千代と朔は2人に何を話してるんだろう。あとで問い詰めなくちゃ。
桜華さんもエプロンを着けて、いよいよチョコ作り開始だ。
刻んだチョコを温めなおした生クリームに入れて、しっかり溶けるまで混ぜる。溢さないように、慎重に、慎重に····
「結人くん、もうちょっとガツガツいっていいわよ。生クリームが冷めちゃったら溶けなくなっちゃう」
そう言って、背後に立った満さんは僕の手を持って混ぜ方を教えてくれた。朔に似た大きな手で触れられると、やっぱり男の人なんだなと思う。
「満さんがチョコを渡したい人って、どんな人なんですか?」
「あら、興味あるの? 語っちゃうわよ?」
「やめときなさい結人くん。ほんっとうに長いから」
「あらやだ、桜華だっていつもこうせ──むぐっ」
「ほら、おしゃべりばっかしてないで作るわよー」
満さんの口にチョコを突っ込んだ桜華さんは、棒読みで言いながらチョコを一口大に分けていく。
2人の恋バナなんて、興味しかないんだけどな。また今度、ゆっくりお茶でもしながら聞いてみたい。
でも今日は、チョコ作りに集中しないとなんだよね。
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