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2人の意外なところ

 チョコを30分くらい冷蔵庫で冷やす。その間、僕たちは紅茶を飲みながら、桜華さんが持ってきてくれたケーキを食べて恋バナで盛り上がる。 「──でさ、その瞬間にね、ソイツにハマっちゃったのよ。今じゃ振り回されっぱなしよ~。年下のくせに生意気だし」 「でも、そこも可愛いんですよね」 「やだ~、わかるぅ?」 「えへへ····」  この流れ、20分足らずで5回目なんだもん。流石の僕でも、満さんのキュンポイントがわかるようになった。  桜華さんは、満さんの隣で4回目の大きな溜め息を漏らす。そして、次こそ自分の番だと言って話し始めた。お相手は僕も知っている人で、かなり付き合いが長いらしい。  でも、桜華さんが奥手なうえに相手は鈍感だから、全く進展がないんだと満さんが教えてくれた。   「なんで全部アンタが語ってんのよ。あとねぇ、アイツは鈍感っていうより組のことしか考えてないの。だから、アタシのことも()()()()対象と思って見てないのよ」 「え、場野組····じゃないや、ちる、ちりゅうきゃく····」  ダメだ。やっぱり噛んじゃう。トリュフくらい難しい名前なんだもん。 「んっふふ。千流鶴慈會(ちりゅうかくじかい)、ね」 「す、すみません····。あの、組の人なんですか?」 「え····? あらっ····」 「桜華って外面はしっかりしてるんだけど、実はおっちょこちょいなのよね~。思い込みが激しくて勢いで動くの、昔からよ」 「なんですって? そういうアンタはほんっとズケズケズケズケ····そんなだから、ちーくんも生意気に育っちゃったんでしょ」  ちーくんとは、満さんのお仕事の後輩で、満さんの次に人気の美容師さんらしい。そして、満さんの恋のお相手。  なんだかんだ言い合ってはいるけれど、やっぱり仲良しなんだよね。お互いのことを知り尽くしてる感じがするんだもん。  それより、2人ともめちゃくちゃ恋してるんだなって思うと、失礼かもしれないけど凄く可愛いなって思っちゃった。 「えへへ。満さんも桜華さんも、お相手のことすごく好きなんですね」  2人は頬を赤く染めて黙ってしまった。普段の勢いやカッコよさが嘘みたいに可愛い。 「あ、そろそろチョコ冷えたんじゃない? さぁさ、チョコ作り再開しましょうか」  照れ隠しなのだろう。桜華さんが立ち上がり、空になった食器を運び始めた。満さんもそれに続く。  僕たちはさっさとテーブルを片して、また和気藹々とチョコ作りに戻った。  取り分けていたチョコを、手のひらでコロコロ転がして丸める。だけど、手にベタベタくっついて上手く丸められないや。  桜華さんと満さんは、僕みたいなことになっていない。どうしてだろう。 「あぁ、結人くんは体温が高いのね。私たち冷え性だから。おてて、冷やしてから丸めましょうね」  そう言って、冷水を用意してくれた満さん。僕だけが冷たい思いをするのは気の毒だと言って、一緒に手を冷やしてくれる。  3人で『冷た〜い』と笑いながら手を冷やした甲斐あって、無事にチョコを丸めることができた。  コーティングしたガナッシュをバットで転がし、ココアパウダーを纏わせたら······ 「で、できた!」 「うふっ、上手くできたわね。それじゃ、そろそろそこの男どもを一旦散らしましょうか」  桜華さんがキッチンの入り口を指さして言った。 「え?」  見ると、4人がキッチンを覗いていた。いつからいたんだろう。  りっくんと啓吾は安定のカメラマン。八千代は不安そうな顔をしているけれど、朔はなんだかワクワクしているようだ。 「もう! 男子禁制って言ったでしょ」 「····いや、桜華さん以外男子だろ」 「やぁだ、朔ったらノンデリなこと言わないの〜」  途端にわちゃわちゃしだした。啓吾とりっくんはつまみ食いしたがっている。  僕は、出来上がった大量のトリュフが入っているバットを、そっと引いて隠した。 「あのね、もうちょっとだけ待ってて。ちゃんとラッピングしてから渡したいんだ」  僕がそう言うと、皆は渋々、ぞろぞろとキッチンを出ていってくれた。さぁ、ここからが最難関だ。  チョコ作りは手伝ってもらった。だけど、ラッピングは1人で頑張りたいって言ったんだ。  不器用な僕にはかなりハードルが高いけど、それくらいは1人でやりきりたいんだもん。 「結人くん、こういう結び方もあるわよ」  流石、桜華さんはラッピングがとても上手い。僕でもできそうで、見た目が華やかになるような結び方を教えてくれる。  隣で一緒に結びながら、すごく丁寧に教えてくれたんだけど、なぜだか出来上がったのは全く違う見た目をしている。 「あら? さっきまでいい感じだったのに····あ、ここだわ。ここで逆から通してるのよ」 「結人くんは一生懸命だけどぶきっちょなのねぇ。私と一緒」  カリスマ美容師の満さんと、僕が一緒? 「私もね、これだけは! ってことに不器用が出ちゃうのよ」 「恋愛とかね」  間違えたところまで解きながら、桜華さんが言った。 「うっさいわね。アンタもでしょ」 「さ、結人くん。ここからもう一回やるわよ」 「あ、はい!」  頬をふくらませたまま反対隣に座った満さんが、慣れた手つきでラッピングする。あっという間に、僕より早く包み終えてしまった。 「わぁ、満さんもラッピング上手なんですね。すごい····」 「そりゃ毎年同じの作って同じように包んで渡してるからね」  満さんは、悲しそうな表情を浮かべて言った。 「え?」 「毎年、匿名で渡してるのよ。満はねぇ、こう見えて肝心なとこだけすっごいビビりなの」  唇を尖らせて、ツンとそっぽを向いた満さん。毎年、たくさん贈られるチョコに紛れさせているらしい。  意外だ。いつも自信に満ち溢れていて、グイグイくる満さんからは想像できない。 「アンタだって、毎年義理だって言って渡してるくせに」 「アタシはビビってるわけじゃないもの。ただ、あのバカには言ったところで····ねぇ」  2人が、普段とは真逆な表情を見せている。これ、このままじゃ良くないよね。 「あ、あの! メッセージカードを添えるのはどうですか? 本当の、素直な気持ちを一言だけでも書いて」  僕は一昨年くらいからそうしている。だって、書いておかないと言う暇がなかったりするんだもん。渡した瞬間に襲われちゃうから。 「素直な気持ち····ねぇ」  それは迷惑でしょと言いたげな満さん。関係を崩したくない気持ちもわかる。  桜華さんは、言っても無駄だと言う。お相手が、自分を組頭の娘として、そして妹のようにしか見ていないと分かっているのだと。 「でも····こんなに素敵な2人が、そんなちっちゃい理由で相手にされないわけないです。えっと、無責任かもしれないけど、ちゃんと気持ちを伝えてほしいなって····」  2人は顔を見合わせて、困ったように笑い合った。 「まぁ、アタシたちもいい歳だしね。いっちょやってみましょうか」  長い黒髪を結った桜華さん。やる気スイッチが入ったようだ。  満さんも、メッセージカードを1枚取った。勇気を奮い立たせてくれたみたい。 「そうね。弟たちば〜っかり幸せそうなのも悔しいし。そろそろアタシたちも、自分の幸せ考えないとよね」  2人が本気を出して、落ちない人なんているのだろうか。  そんな素朴な疑問を抱きながら、僕も皆への想いを書き綴っていった。

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