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狂愛《愁弥side》3
夜、もうすぐ映画の時間だというのに綾から連絡はなかった。
俺は泊まる準備をして綾の家に向かった。
「兄貴どっか行くの?」
弟の洸弍が俺に問いかけた。
「綾の家に」
「ふぅん」
連絡するって綾は言っていたけど、待ちきれないから綾の家に向かった。
「愁弥っち久しぶり!どしたの?」
綾の家に行くと、綜さんが出迎えてくれた。
「綾いますか?」
約束を忘れているなら仕方ない。
また別の日に行けばいい、と言おう。
そう思ったのに。
「綾なら山田くんと一緒に部屋にいるよ」
この事実が胸に突き刺さった。
約束を忘れているのは、山田と一緒にいるから?
もう俺は綾にとってただの幼なじみなのかもしれない。
「上がってかないの?」
「いえ、綾に渡すものがあって。悪いんですけど、これを綜さんから綾に渡してください」
そう言って俺は綜さんに綾からもらった映画の前売り券を渡した。
「これ渡せばいいんだね。了解」
「じゃあ、おやすみなさい」
俺は綾の家をあとにした。
このまま家に居れば、約束を忘れてた綾が来るだろう。
きっと俺が事前に映画の話題をすれば綾は忘れなかったかもしれない。
そこまでしなくても綾が覚えていてくれている…覚えていて欲しいと思って日にちが近づいても俺から話題をふることはしなかった。
期待してたんだ。
綾も楽しみにしてくれてるって。
今は綾に会いたくない。
一人にもなりたくない。
だから、高校から一人暮らししている後輩のルイに電話した。
『はい』
「ルイ…今何してる」』
『家にいます。予習をしようかと思っていたところですが』
「そこに行ってもいいか?」
『え?』
ルイは驚いていた。
こんな夜分遅くに、先輩が家に行きたいというのだから当たり前か。
もしかしたら用事があるかもしれないしな。
「嫌ならいいんだ」
『いえ、断る理由も無いので。歓迎しますよ』
ルイは俺を迎え入れてくれた。
一人になったって、どうせ辛いだけなんだ。
だから今は綾の居ない環境に。
「ありがとう。じゃああと30分ぐらいで着くから」
『はい、気を付けて』
ルイの家には、生徒会メンバーと一緒に何回か行ったことがあった。
だから道は覚えていた。
「愁弥さん!」
「ルイ」
ルイは途中まで迎えにきてくれた。
本当に我が儘な先輩で申し訳ない。
ルイの優しさに甘えてる自分がいた。
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