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狂愛Ⅲ《槞唯side》1

ある日の夜。 学校から帰宅して、着替えもせず好きな小説の新刊を読んでいるとインターホンが鳴った。 時計を見ると23時。 誰だ、こんな時間に。 モニターを確認すると、見覚えのある顔がドアの前に立っていた。 神威綾… 私の大嫌いな人だ。 「神威さん…?」 「やっほ。お話ししましょ」 この人は最近まで舞台に出演していて遠征していたはずだが。 というか、なぜここを知っている。 「なぜここが分かったのですか?」 「お前の担任俺のこと好きだからすぐ教えてくれた」 「教師が個人情報漏洩とは呆れますね」 こんな時間に玄関で立ち話をするような話では無いと悟り、私は神威さんを部屋にあげた。 「綺麗にしてんだなー。感心」 「ところで、お話しとは?」 神威さんと私は座ることなく、リビングで立って会話をした。 「愁弥を抱いたんだって?」 やはり、その話題か。 「愁弥さんから聞いたんですか。嬉しいですねぇ」 「何が嬉しいんだよ」 愁弥さんは、神威さんに話したのか。 意外だ。 「愁弥さんは私に抱かれたことは忘れると言ってました。しかし神威さんに報告したということは、ちゃんと私が刻まれたということですね」 「挑発でもしてんの?気持ちの入ってないセックスが刻まれたところで別に気にしてねぇけど」 「そうですか」 やはりこの人に挑発は通じない。 通じないとは思ったが、なぜこんなに自信に満ち溢れているのか。 「悪いね。昔から愁弥は俺だけのモンだから」 「愁弥さんをモノ扱いするとは何様なんですかあなたは」 気高き愁弥さんがあなたのような人を選んだことでさえ腹が立つのに。 愁弥さんをモノ扱いするとは。 「んー…敢えて言うなら…神威様?」 呆れる。 無意識にため息が出るほどに。 「謝罪しろとでも?」 「いや別に」 「それではもう話すことありませ…」 私が話を終わらせようとした瞬間、気付くと神威さんに押し倒されていた。 私の両手を押さえつけて、余裕の表情で続ける。 「話しには続きがあるんだよねー」 「へぇ…何ですか?愁弥さんを抱いた私を殴るとか?」 「それもいいけど、俺はそんなんじゃ気がすまねぇんだよ」 愁弥さんを抱いた時点で、こうなるだろうとは覚悟していた。 殴られる以上のこと…何を考えているのか。 「愁弥をこの部屋で抱いたんだよな?」 「そうだと言ったら?」 「それを上書きしにきた」 上書き…? どういうことか考える間もなく、唇が温かくなった。 そして気が緩んだ隙に手錠をかけられた。 最悪だ。 「この部屋を愁弥を抱いた部屋じゃなくて俺に抱かれた部屋として上書きしてやるよ」 「望んでいませんが」 私は手錠をかけられた手で唇を拭った。 愁弥さんとのキスをこいつに上書きされた事実に腹が立つ。 「お前の意見なんか聞くか。俺はムカついてんだよ。お前の中で愁弥が思い出に残ってることが」 そう。 私は愁弥さんを抱いた。 その事実が消えることなどないのに。 何を考えている神威綾。 誰が愁弥さんを泣かせたのか分かっているのか? 「あなたが愁弥さんを縛り付けておかないからでしょう?隙を見せた愁弥さんの原因はあなたですよね?」 「まぁ図星だよな。だからこそ余計にムカつく」 「いいんですか?愁弥さん以外を抱くなんて。浮気ですよ?」 私は笑って見せた。 あの愁弥さんがこのような行為を許すはずが無い。 私を抱くなんて無意味なことなのに。 「勘違いすんなよ。ペットに躾をするのは浮気とは言わねぇよ」 ペットだと…? 「人をペット扱いするとは…もう御託はいいのでさっさと終わらせてくれますか?」 「余裕だなお前」 抱きたければ抱けばいい。 別に何の傷にも成りはしないのだから。

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