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第2-2章 幼子の為のスケルツォ(前)
「なる程・・な・・・・」
歩く道すがらダツラから説明を受けたカッセキは苦い声を洩らす。
ふらふらと何処へ行くでもなく歩きながらダツラはカッセキにこれまでの事を掻い摘んで話す。尤もトウキに対してされた仕打ちについては暈して話したが。
「今は精神から来るダメージの方が深刻な感じ・・。」
目を覚まして以来トウキはずっと塞ぎ込んでいる。ダツラの前では気を遣わせないように時折微笑んだり食事を取ったりしているが身体が受け付けずに戻してしまう事が殆どだ。
「こんな時・・・・」
ふと立ち止まりダツラが呟く。
「ヒトならもっと上手く慰められたかな・・・」
そう言い自責の笑みを浮かべる。
差し伸べる言葉も見付けられず、傷を更に抉ってしまう事を恐れて逡巡し有触れた陳腐な台詞しか出てこない。
助けたいと言う想いだけが内側で空回りし続け何も出来ない自分と言う事実が嘲笑う様に足元へ落ちていく。
瞳が捉える物を失った目の前の男にカッセキは呆れた様な溜息を吐く。
彼が人ではないアンドロイドだという事に何かしらの負い目を感じているのは事実だろう。
とは言え口に出したその疑問は仮に彼が人だったとしても同じ様な言葉を口にしただろう。
助けたいと言う思いと無力と言う現実。
それは諸刃の様に、思いが強ければ強い程自分へと跳ね返り突き刺さって行く。
身体の奥底に在る心。だからこそ寄添い合うのは簡単な事では無い。
ダツラもトウキもそれ故に自身を責めている。
尤も、それは今此処に居ないあの男もそうなのだろうが。
「そりゃ・・・お前。」
「きゃあっ!」
カッセキが否定の言葉を口にしようとしたのとダツラが再び歩き出そうとしたのと曲り角から飛び出して来た誰かがダツラにぶつかり派手に引っ繰り返ったのと、3つの事が殆ど同時に起きた。
「痛っ~。」
鈴の様なコロコロとした声が訴える
「あなたねぇっ!どこに目を付けて歩いてんのよっ!」
転ばされた事が余程腹立たしかったのか声の主は可愛らしい声色とは裏腹に凄い剣幕で怒り出した。
けれども2人の男を驚かせたのはそのギャップでは無かった。
「へぇっ!?」
「トウキ、君!?」
真っ白い髪と大きな青い瞳。何より幼さの残る面立ちはあの小さな少年に相似している。
「あ。違った。」
そう言ったダツラは胸に手を当てていた。何故か目の前の少女の。
「いやあぁーーっ!変態っ!!」
当然の事ながら少女の割れんばかりの絶叫と共に痛烈な平手打ちかダツラに食らわされたのだった。
その様子からカッセキも漸く確信が出来た。
例え目の前の少女がトウキで仮に喋れたとしてもこの反応は無いだろうと。
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