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第2-3章~ミルクホールサラバンド(中)~
「あー!もうっ信じられない。」
一触即発の空気を打ち破ったのは勢い良く飛び込んで来た先程の少女だった。その後には慌てて追いかけて来たのかトウキが息を切らせている。
「とにかく私はヒトなんか絶対に信用してないんだから!」
華奢な身体の何処にそんなパワーがあるのかと思う程、少女はずっと怒り続けている様に思えた。
「ねぇ、君。」
相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべてダツラが少女に話しかける。その様子からは先程の険悪な雰囲気は微塵も感じられない。
「気安く話しかけないで!それに私にはビャクシャクって言う名前があるの。」
「はいはい。で、ビャクシャクちゃんトウキ君との話は出来た?」
手の平をヒラヒラとさせて無抵抗をアピールする姿は、半ば人を子莫迦にしている様にも見える。
相手を憤慨させて知りえる事を吐露させる小手先の策でもあるが、ダツラの場合普段から人を怒らせる行動を取っているので策略なのかは判断できない。
「お前等兄妹か何かか?」
既に終わった3本目の煙草を灰皿に押し込みながらカッセキがビャクシャクでは無くトウキに尋ねた。元来まどろっこしい事が嫌いな彼は質問もストレートだ。
そう問われたトウキは考えてしまう。
天使達は母親から生まれたのではない。神である父から創られた存在なのだ。
血が繋がっているかと聞かれれば分からないし、天使同士何処までが同じで何処からが違うかは自分には計り知れない所だ。
とは言え血が繋がっていなくとも兄弟と呼ぶ場合は多々ある。
自分とビャクシャクの場合同じ神から創られた訳だし生まれた目的も同じだ。尚且つ生まれた時間に差があるので兄弟と言われれば兄弟なのだろう。
寧ろ他のどれよりもその言葉が一番しっくり来る。
「・・・・」
そこでトウキは漸く小さく頷いた。
「何だその妙な間は。」
呆れたカッセキが思わず4本目の煙草を取り落としてしまう。
「えー。じゃあ双子?双子?」
実際2卵生の双子の場合1卵生程は似ないのだがダツラはそんな事など関係無さそうに楽しげに訊く。
仮に2人が1卵生でどちらかが巧妙に女装乃至男装をしていたとしても彼的にはokなのだろう。
「勘違いしないでよ。その子と違って私なんかもう2歳よ。」
腕を組みビャクシャクは自慢気に言うがトウキの方は大慌てだ。
確かに彼女の言っている事は正しいのだが生まれ落ちた時からこの姿である天使の2歳とヒトの2歳は全く違うモノだ。
ビャクシャとトウキをヒトだと思っている3人には奇妙な話に思われるだろう。
「姉と弟・・・な・・・」
「あー、でも言われてみればっぽいかも。」
けれどもそんなトウキの心配とは逆に3人は余り気に留めていないように見えた。どうやら2歳違いの姉と弟と言う事で受け止められたらしい。
「で、何でまた俺達の前に現れたんだ?」
「・・!ぶつかって来たのはそっちでしょ。」
カッセキのストレートな問にビャクシャクはむくれてそっぽを向いてしまう。
どうやら出逢ったのは一応偶然らしい。
「何にせよ2人共さっさと家に帰るべきですね。」
そう容赦なくロカイは台詞を吐くと、冷たげな視線をもう一度ダツラの方に向けて―問題の起こらない内に―と付け加えた。
彼女なりの擁護は相変わらず分かり難い。
「・・・。無いわよ。家なんか。」
一瞬躊躇うように口を噤んだビャクシャクは珍しく端切れが悪そうにそう返した。
「あ?」
ライターに火を付ける手前でカッセキが眉を顰める。要領の得ない話は自分がするのも相手が話すのも嫌いの様だ。
「決まった場所に居付く訳無いじゃない。ヒトとは違うんだから!」
まるで小さい子が弁明する様にビャクシャは一気に捲し立てた。
「・・・お父様だって何処に居るか分かんないし。」
最後に小さくそう付け加えた言葉は彼女の嘘の無い寂しさが混じっている様に聴こえた。
「トウキ君は会った事ある?」
当然の話の流れにトウキも困ってしまう。
会った事は会ったのだが、しかも極最近に。けれどもそれを根掘り葉掘り訊かれるのは問題がある。
「あーー。分からん。」
寂しさを見せない様に唇を噛む少女と完全に困ってしまった少年。
2人を前にして真っ先に音を上げたのはカッセキだった。
「結局どんなヤツ何だよ。そのお父様ってのは。」
「気安く呼ばないで!」
カッセキの一言に苛立ったビャクシャクが掴みかかる。こうなると本当に猫の様だ。
「お父様は多くの名前を持っているの。世界中を把握出来るしヒトなんかが簡単に会える存在じゃないんだから。」
そう言って腰に手を当てて見得を切ると白い髪が踊る。
「ロカイ・・」
「何ですか?」
一歩離れた場所でそのやり取りを見ていたダツラに尋ねられてロカイは鬱陶しそうに答えた。
「仮にもしトウキ君が話せたとして同じ説明をする時やっぱり『お父様』って言う単語は出て来たカナ?」
「そうじゃないですか?」
一瞬の沈黙。
「羨ましいっっ(* ̄m ̄)!」
ダツラが地面を力一杯叩く。何もそこまで悔しがらなくても良いと思うのだが、彼の中の妄想はロカイにしか測り知れなかった。
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