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第2-4章~繋ぎ合わせたフリアント(中)~

頬に刺すような風があたる。 紺碧色の空に流れる雲をデリスはぼんやりと眺めていた。 依頼を淡々とこなしては町から町へ当てもなく彷徨う。その生き方は以前と変わらない筈なのに何かが自分の中で崩れて行く。 救済を求める想いが亡霊の様に、あの日の熱に縋り自分を引き摺り戻そうとする。そんな自分を何度斬り殺しただろうか。 ーもう一度だけ名前を呼びたい。 ー自分に触れて欲しい。 あの子の全てを奪っておいて身勝手な願いばかりが深層でこだまする。ほんの少しでも咎の刻まれたこの手で一緒にいられると思ってしまった軽薄さを呪いながらダークブラウンの瞳を閉じる。 巡る記憶はどれも優しく暖かなもので、それがよけいに自分を傷付けていく。 自分を苛(さいな)む記録だったばかりの世界には鮮やか過ぎる光景はいつもあの日で時を止める。 (生きていて欲しいです) あの時お前は確かに声にならない言葉でそう言ったよな。 本当は気付いていたんだ。 叶えてやれなくてごめんな。 「っ!」 逡巡する思考は自分へ向けられた殺気で掻き消される。 5人、6人だろうか。射るような気配を肌で感じる。 「出てこいよ」 挑発する様に笑うと剣を鞘から抜く。 放たれた銃弾がデリスの脇を掠めるよりも一瞬早くその場を飛び退くと相手との距離を一気に詰める。上段から斬りかかり一人を剣で沈めると切っ先を回転させ背後にいた敵に再び上段で切る。 攻撃は銃身でガードされるが構わず蹴りを正面に放ち怯ませると横へ薙ぎ払った剣で仕留める。 立木の位置を確認しながら死角を消していく。 あれだけ死を望んでいた魂とは裏腹に肉体は迎撃の姿勢を崩さない。幼い頃から身体に染み付いた感覚が戦いを放棄させようとしない。 殺されるから殺してきた-。 奪われるから奪ってきた-。 そうやって俺達は生きてきた。付加も欠失も無い世界。 それなのにー。 無機質な目がスコープからデリスを捉えている。身体を反転させて攻撃を避けるが放たれた一発目が腕を掠め血が滲んでいく。続けざまに撃たれた二発目を前転で回避しそのまま突きの一撃で三人目を倒す。 「何なんだコイツら」 木を背にして残りの位置を伺う。 自分を狙う賞金稼ぎかとも思ったが統率された動きと一体感を持った使命のようなものが敵からは感じられる。どこかの組織に属している、そんな雰囲気だ。 それなりの手練れなのだろうがその連帯感が逆に動きを制限させているようにも見えた。 「・・・・!」 事切れた敵の首にペンダントが掛けられているのが見えた。一つ目の梟が百合を爪で掴んだ模様は確かにどこかで見た事があった。 攻撃を避けながら記憶の糸を辿る。 銃弾がデリスを掠め周囲の岩が砕けた瞬間記憶の糸が繋がる。 トウキを助けに地下施設へ足を踏み入れた先に飾られていた模様。重要な意味合いを持つのか、部屋の高い所へとそれは捧げられていた。 だとすれば相手は終末信仰の類い。吐き気を催す程嫌悪する存在、しかもコイツ等は-。 トウキを助け出した事で再びデリス達の元に現れたのだろう。これ以上あの子に何をさせると言うのだ。 怒りが判断と思考を焼き尽くし身体を支配して行く。 一直線に四人目に向かうと躊躇うこと無く剣を振り下ろした。 背後に放たれた銃弾を剣でガードし、続け様にもう一人の足を切りつける。 バランスを崩した敵に蹴りを放ち地面に落とすと剣を突き立てた。 勢いのまま逆手に持ち替え剣を引き抜くと最後の一人と対峙する。 斬りかかるには距離が遠く、それでいて相手の射程距離圏内に入っている。分が悪いが最早そんな事を気に止めている思考は無い。敵が攻撃を仕掛けるよりも先に斬りかかるだけだ。 デリスが足を踏み込むのと敵が引き金に手を掛ける、ほぼ同時に行われた動作だがトリガーが引かれる事は無かった。 「なっ・・・!」 思わず言葉を飲み込む。対峙していた筈の相手が背中から血飛沫を上げ前のめりに倒れていく。 敵の背後に現れた人影。漆黒の髪と白い肌の青年。 「・・・・・・・・・」 晦冥を思わせる黒い瞳と目が合った。

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