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第2話 「魅力」とは
へぇ……この辺は結構歩道に草が生えちゃってる。
そっかぁ、住宅地だけれどあんまり人の行き来がないのかな。街の整備をもっとしないと……ですね。先生と今度食事でもする時があれば話してみようかな。
そんなことを思いながら、久我山さんのご自宅があるマンションまでの道すがら、足元で枯れて茶色に変わった猫じゃらしを見つめた。
何度かここは通ったけれど、あんまりちゃんと見たことなかったから。車で移動したり、その……なんというか、尾行したりして、足元や建築物までちゃんと見てなかったし。興信所の方に任せてる部分も多くあったし。
「蒲田さんはライフゲームってやったことある?」
「ライフ?」
「そ、知らない?」
ライフ、人生。ゲーム……まぁ、日本語訳にしなくてもそれはわかるけれど。
でも僕はあまりゲームってやったことないんだ。
「………………ゲーム、なんですか?」
「そう。ルーレット回してさ」
「! あ、知ってます! 見たことは!」
あ、そっちか。僕はてっきりデジタルの、パソコンとかゲーム機を用いるのかと。
ルーレットのなら見たことがある。ルーレットを回して出た数字分、マス目を進んでいくゲームだ。
「やったことはないの?」
やったことは、ない。たまに日本にいて、従兄弟たちが集まったりするとそのゲームをやっていた。でも僕は、人見知りだから、たまに帰ってきて、ごくごくたまに会うだけの従兄弟たちに馴染めるわけがなくて。大体両親のそばに座ったまま、帰りの時間までをぼんやりと過ごしていた。本当は勉強か読書でもしていたかったけれど、そうもいかないから。
義君はそういうの上手だったな。
同じように海外生活が長いはずなのに、すぐに従兄弟たちの中心になって、人が絶えずその周りにいた。僕には到底そんなことは難しくて、そんなところも義君のすごいところだなぁって眺めてるだけ。
「やったことはない、です。海外生活の方が長くて」
「そっかぁ。なんかかっこいいね。国見さんもそう言ってた」
「義……ク……信さんが?」
「義君でいいんじゃん? 国見さんが蒲田さんの義君って呼ばれてるとこすっごい似合うし」
その様子を想像したのか、聡衣君がにっこりと笑った。その拍子に、彼の少しクセのある長めの髪が強い北風に、ゆらゆら揺れてる。
「国見さんって面白い人だよね。お店でも常連さんとさ……」
素敵な人だ……と、思った。この人のことを注視して、尾行していた時。義君のお店で働く様子も何度か観察したけれど、ずっと笑っていて、楽しそうで、仕事をこんなふうに楽しめたりするんだって、少し、驚いた。
それに義君があんなに褒めていたのって珍しくて。
義君にも迷惑をかけてしまった。
もちろん、この人にしてみても、迷惑だっただろうに。
約二ヶ月近く、ずっと生活を監視されていたなんて、もっと。
「僕のこと嫌いじゃないんですか?」
「……」
聡衣君は目を丸くした。そして白い吐息だけがふわりと立ち込める。
「その……だって、尾行なんてされ続けて、その、なんというか、義君に頼んで、あなた方のその、仲を引き裂こうとしたりして。僕、とても」
嫌な人間だと。
「思わないよ?」
「……」
「むしろ、俺の方こそ嫌われてるでしょ」
「?」
「全然、身分違いじゃん? 旭輝と俺じゃ。蒲田さんにしてみたらさ」
やっぱり、素敵な人だと思った。
「全然、思いませんよ」
あの義君が絶賛するくらいに仕事に対しての真摯な姿勢。
義君、家族の中では異色の道に進んだんだ。みんな政治関係だったり、官庁勤めになったり、医師、弁護士、そういう仕事をしている親戚ばかりなのに、その中、たった一人で全く違う道、家族の誰も通らない道を切り開いて、耕して、自分の力だけで進んでいく。そんな人だから仕事に対してのプライドも人一倍で。そんな人があんなに褒めていた。それだけでとても立派な人だとわかる。
でもそれだけじゃない。
あの久我山さんが選んだ理由って、そういう立派なところだけじゃなくて、なんというか。
「似合ってる」
「…………え?」
「あ、すみませんっ、その、お二人は似合ってるって思います」
綺麗な人だと思う。
その綺麗な人が目をまた丸くして、僕をじっと見つめた。
優しいし、素直で、それから、僕と違って人見知りをしない。仕事柄人見知りではやっていけないとは思うけれど、でもそれだけでなく、僕がこうして気兼ねなくお話しできてるのが何よりの証拠というか。
そう、魅力的な人、だ。
それが一番の違いかもしれない。
女性的、とかじゃなく、綺麗なんだ。なんだろう、指先にまで全部、その「魅力」が詰まっている感じ。
でもその「魅力」がなんなのか僕には解明できていない。
「ぁ、ありがとう」
けれど僕には全くない魅力。
いいなぁ。
こんなふうになれたらすごいなぁ。
けれどその「魅力」がなんなのかもわからない僕には。
「……どういたしまして」
僕には、身分違いどころか、完璧だと思えるくらいに、久我山さんとお似合いに思えて。この二人の間を引き裂こうとしていたなんて、僕はなんて愚かで、恥ずかしんだと、自分を叱りつけたくて、口が勝手にへの字になってしまうほど申し訳なくなった。
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