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第11話 このインスタントラーメンの美味しさの秘密は

 一人キャンプとは……そう思ったけれど。 「なるほど……」  河野さんはやっぱり優しい人だ。僕のようにアウトドアどころか屋外での活動自体が不得意な人間でも初一人キャンプができるような場所を選んでくれたんだと思う。  周囲に人はいるけれど、それぞれ少人数だったり、僕と同じように一人だったり。だから僕でも気後れせずに過ごせそうだ。 「よし」  道具は河野さんと同じものを選んでみた。スチール? 銀色のものも素敵だったけれど、河野さんと同じ、外装をペイントされていてそこにこのメーカーのロゴが入っている、カラフルなもの。そのまま小さなガスコンロになっていて、ミルクパンで調理をするくらいならこのコンロで十分なもの。  そこに水と、インスタントラーメンを……。  入れて。 「ネギも入れて……」  ここは僕のアレンジ。ラーメンにお葱を入れるの好きだから。そしたら、この前以上に美味しいインスタントラーメンになるかもしれない。 「……」  でも。 「……」  でも、どうして僕はそんなにあの時のラーメンにこだわるのだろう。こんな貴重な休日を使って、不慣れでそう得意でもない屋外で、なんでこんなことを。  別にラーメンが大好物、というわけではない。  美味しいと思うものもあるけれど、僕にとっていつでもどこでも食べたいもののランキング上位三つに入るほどではない。  そう、なかったんだ。  でも、あの時食べたラーメンは――。 「あの……すみません」 「はい」  声をかけられて顔を上げると、女性が二人そこに立っていた。 「あのぉ、キャンプ初めてなんですけど」 「はい……僕もそうなのですが」 「わ! そうなんですか? 一緒!」 「……はぁ」 「そしたらぁ」  はぁ……と、また返事をしようとしたところだった。 「すみません。二人キャンプをしようと思ってたところなんで」 「えぇ?」  その女性が僕の横、右側から突然割り込んできた声の方へと顔を向けて、にっこりと笑って。 「ちょっと君らは邪魔かな」  笑ったまま固まった。 「河野さん!」 「よ。本当に来たんだ」 「あ、あのっ」 「よく道迷わなかったじゃん」 「ああ、あ、あのっ」 「?」 「いや、今の女性がっ」  すごい顔を引き攣らせながら帰ってしまわれたけれど、あの。 「あぁ……いいんじゃん? あの程度のレベルは別に」 「レベっ」 「あのあからさまな猫撫で声とか……苦手なんだよね……話してても面白味なさそうだしさ」 「おもっ」 「面白そうだったか?」  それは……まぁ、面白いという単語が当てはまるかどうかは別だけれど、でも、別に興味はさして。 「それに蒲田って、恋愛対象同性でしょ? 面白みもない恋愛対象外の初対面女なんて邪魔かなって」 「んなっ」 「いや、わかるでしょー。久我山が聡衣とくっついた時とかさ」 「……」 「いっくら尊敬している先生の娘さんがお熱を上げてるって言っても、固執しすぎでしょー」  そんな歯に衣、どころか歯が剥き出し、みたいなことをしれっと冷静で、そして、悪気ゼロで言ってのけてしまう。 「あ、一緒にキャンプしたいようだったら呼び戻そうか?」 「い、いえ! でもっ、河野さんは女性がお好きと……」 「俺、面食いなんだよね。顔のレベルもフツーだったじゃん」 「!」  なんてことを。 「でも……河野さんにしてみたら、その、男の僕と……」 「面白いじゃん」 「……」 「俺は、蒲田と話してるの面白くて好きだけど?」 「って、マジで一人分?」 「え? だって」  インスタントラーメン一袋しか持ってきていなかった。でも、それは仕方がないかと。だって、一人でするつもりだったから。義君にも話していなかったし、周囲の知人でアウトドアが好きな人もいないし。  河野さんは……誘ったらご迷惑かなって。 「ま、いいや、だからここ勧めたんだし」 「?」 「ここ具材も買えるの。トマトとクリーム系どっちがいい? あ、あと味噌汁もあるわ」 「え、じゃあ……トマト? でしょうか」 「オッケー」  そう言って河野さんは僕が最初にここへ来た時に立ち寄った受付へと駆け足で向かった。  戻ってきたのは数分後くらい。 「ほら、早く煮ようぜ。腹減った」  その手にはトレイに入った具材とスープが入っているソフトビニールの容器。 「そんで受け皿はこっちな」  言いながら、また河野さんがリュックを手前に持ってきた。そして、あの異次元に繋がっているんだろうリュックの中からお皿が二枚出現した。 「はぁ、うま……」 「!」 「何? お前、醤油好きなの?」  別にラーメンが大好物、というわけではない。  美味しいと思うものもあるけれど。 「お、すげ、葱持ってきたんだ。俺のにも入れてよ」 「ど、どーぞ」  僕にとっていつでもどこでも食べたいもののランキング上位三つに入るほどではない。 「うまぁ……葱、今度から俺も持参しよ」  では、なかった。 「蒲田、ナイスアイデア」  でも、なった。  このインスタントラーメンは、ランキング上位三つに入ってしまった。  ―― 食べるならデスクで食べていいよ。なんなら、僕のデスクで食べるといい。あそこでなら少しは美味しく感じるかもしれないよ?  多分、先生のデスクでも食べてもこんなに美味しくないと思う。 「この」インスタントラーメンがとても美味しいのだと、思う。  ―― もう一つ、カップラーメンを美味しく食べる方法があるんだ。  そして、それは場所だけの問題ではなく、多分……。 「あはは、蒲田、顔、真っ赤じゃん」  多分、おそらく。

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