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第19話 神様のお膳立て
神様、僕は貴方に何かしてしまったのでしょうか。
三食しっかり食べて、睡眠時間は……少し不足している時もあるかもしれないのですが、日々真面目に生きているつもりです。
人を貶めることなんてせず、日々を大事に。仕事も頑張っています。胡蝶蘭は順調とは言えなし、育っている様子はほとんどないですが枯らさずにいます。
なのに。
「じゃあ、異動先も決まったんですか?」
どうして、こんなことをするのです。
「そ。色々調べたら食べ物が美味しそうなところだった」
僕、もう失恋してしまいましたのに。
「まぁ、特産品多い場所ですから……何度か先生と一緒に訪問したことあります」
「そうなんだ!」
あ、僕ってばスーパーモデルの女性と結婚することになりました。ご祝儀たくさんありがとうございます。末長く幸せに……なれたらいいのなぁ。
女性は恋愛対象ではないけれど。
でも、本当に他の方と新しく恋愛でもできたらいいのに。
「これで俺は毎日、お前の惚気顔を見かけないで済むな」
うぅ、河野さんが隣にいては、スーパーモデルの方を探そうにもまだ気持ちの整理すらついてなくて。
「お前……毎日、俺のことを覗き見してたのか」
「してねーよ! するか! いやでも目につくんだよ! 背が無駄にでかいから!」
「お前もでかいだろ。身長、俺と変わらない」
本当に背高いなぁ。あの女性も背が高かった、それこそスーパーモデルみたいだった。じゃあ、これは河野さんの人生に違いない。エリートで紆余曲折はあったものの、途中、波乱万丈すぎるアクシデントがあったものの、最終的にエリートサラリーマンになって、スーパーモデルと結婚する人生。今の河野さんがそうでしょう?
「俺は無駄にはでかくないんだよっ! あぁっ!」
そこで河野さんがルーレットを回すとなんと借金を抱えることになってしまった。なんてこった、と頭を抱えている。そんな無邪気な河野さんをチラリと横目で見ながら僕もルーレットを回してみた。進んだ目の数は八つ。そこで新居にピッタリの高級車を買うことになったようだった。
河野さんは……そのゲームのじゃなくて、本当の方のお仕事、忙しいのは終わったのかな。
どうなのだろう。
僕のところへは聡衣君から連絡が来て、明日うちで、つまり彼らの自宅で鍋するから食べにおいでよって言ってもらったんだ。急遽だし、大丈夫だから手土産とかなしでぜひって。気なんて使わないで気軽にって。僕は、お言葉に甘えてご自宅にお邪魔することにした。
お部屋に上がらせていただくと、リビングにはすでに来ていた河野さんがいて、僕は心臓がキュッとなるほど驚いた。
――おー、蒲田じゃん。久しぶり。
彼のその笑顔に胸の奥ではじわっと嬉しさを滲ませてしまうくらい、すごく喜んでしまった。
彼には恋人がいるのだから諦めないといけないのに。
諦めたとは思えないほど、今も隣に座っていることにドキドキしてる自分がいる。
「またやろうね」
聡衣君がそうぽつりと呟いた。
「やりましょう。なんなら、向こうでやりましょう」
「来てくれんの?」
「えぇ、機会があれば。叔父は仕事の都合でそちらに出向くこともあると思うし」
「俺も行ってやろうか」
ぇ、えぇ? 河野さんも? わ、そしたら、また会える?
「おい! なんでそこで無言なんだよ!」
「ぷはははは」
そんな二人の、聡衣君と河野さんのそんな会話を聞きながら、僕は内心、喜んでしまった。神様も呆れてしまうくらいちっとも諦めきれてないらしい。彼とこれからも会う機会が仕事以外で作れるのかもしれないと、胸の内で喜びが溢れて止まらなかった。
神様、あの、もしもし? 神様?
聞こえていますでしょうか。
「それにしても真面目だよなぁ。蒲田はさぁ、ゲームでも、不正は許しません! ってさぁ」
「あ、当たり前のことです」
「っぷは。じゃあ、あの先生も不正はしてない、と」
「当たり前です!」
「まぁ、だろうな。あの人、数少ない本物の、政治家だと思うわ」
「……」
あの、神様。
僕はこのままでは諦めきれないのですが。まだ、今までしてきた片思いたち以上に彼への片思いがくっきり輪郭まで残ってしまっているのですが。
久我山さんの時はわりと早めに消えてくれたのに。河野さんへの気持ちはまだ、ちっとも薄れていくれていないんです。これでは、この片思いはいまだに消える気配がないままなのですが。このままでもいい、ということなのでしょうか?
「あ、そうだ。蒲田さ、この間、連絡寄越しただろ?」
「ぇ……あ」
「くれただろ? 電話。悪いな。すっげぇ忙しくてさぁ。さっきも話してたけど異動が多い時期だから余計にな。それで? なんかあった? 俺も折り返したけどすれ違いで」
「…………ぁ、えっと」
神様。
これでは勘違いしてしまいそうなんです。
「蒲田?」
「……あの」
これでは、まるで「ほら、今ですよ、告白するのでしょう?」と神様にお膳立てしていただいたのではないかと勘違い、してしまいそうなんです。
「あれは」
もしもし?
神様。
いいのでしょうか?
僕は、勘違いしてしまいますが。
「チョコを渡そうと思ったんです」
「? 俺に?」
「……はい」
はい、どうぞ、告白なさい――そう貴方様にお手伝いしてもらえたのではないかと。
「そうなんだ。サンキュー」
「お礼!」
「あぁ、まぁ、俺親切だし?」
「もありますがっ! お礼! とっ! か! ありますけれどっ」
勘違いしてしまいますが。
「それだけじゃなくて、ですね……」
いいんですね?
「ほ、ほほほほ、ほ」
深呼吸をしよう。
「ほ、ぅ」
次こそは、ちゃんと恋をしよう。
そう、思った。
そう、決めた。
「ほ……ん、めい」
あ。
ポケットの中にあった。
鍵につけたお守りをぎゅっと手に取った。
「……」
宜しいですか? 今から僕は勘違いしますので、どうか宜しくお願いしますって思いながら。
「河野さんに、本命チョコを渡そうと……思ったんです」
ぎゅっと胸のところで握り締めながら。神頼みしながら。そう、ついに告げてしまった。
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