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第45話 親戚の義君

 右に二回。  左に三回。  わ。間違えなかった。やった。  いつも、二回の次が三回、っていうことに、身体が納得してくれないのか、三回目? なんで左右同じ回数じゃないんですか? 納得できません! っていうかのように身体がいうことを聞いてくれなかったのだけれど。最近、やっと納得してくれたみたいで。 「そしてっ、てっ」  三回大きくジャンプ。 「できたっ」  そして決めポーズまでしっかり踊れた。間違えることなく、遅れることなく。一人でガッツポーズを脳内でしながら。  最後、ピッタリのところで決めポーズをお手本通りにできた感動を噛み締めている。一人だから。もしも、ここに誰かいたらそんなことはできないけれど。 「よし! もう完璧」  体力もついたし。  リズム感もバッチリ。 「うふふふ」  つい笑ってしまう口元を隠すことなく。緩んだ頬を自分の両手でむぎゅっと押しながら時計を見れば、待ち合わせの時間まであと五時間。  お昼に待ち合わせた。 「うふ」  そう、待ち合わせてる。 「うふふ」  今日、成徳さんと。 「ぐふふ」  デート、するから。  ぴょんって、ステップを踏んだ。跳ねた、のではなく、オリジナルのステップ。  最近リズム感のよくなった僕は、決して人様には見せられないけれど、一人だからとオリジナルのダンスを踊りながら、クローゼットの中で、もうトータルコーディネートで準備しておいた服を手に取った。  硬すぎず。  かしこまりすぎず。  されど、ラフ過ぎない服装。  本当は義君のお店で揃えられたらいいのだけれど、なんだか義君のセレクトした洋服たちは僕には少しハイセンスすぎるというか。もうちょっと平凡なのはないのかなっていうか。紺色のニットとか、黒いニットとか。  ピンクじゃなくて。  そんな色、僕には似合わないし、鮮やかな緑もちょっと。聡衣君くらいにセンスがよくて綺麗でかっこいい人なら似合うのだろうけれど。僕には少し持て余すというか。  それにカッコ良すぎて。  僕にはこのくらいでちょうどいい。  オフホワイトのパンツに紺色のニット。紺だけれどお腹のあたりからパンツと同じオフホワイトのボーダーがちょっとだけ入っているのがポイントです。  そう店員さんに言われたまま買った一式を着た。  あ、あと、肩のところの金ボタンが僕としては大冒険です。  うん。この肩のところに三つ、右側にだけついてる金ボタン。  お洒落だと思います。  デートに着るんですって店員さんに言ったら、ピッタリだと思うって言ってもらえたから。  これが義君のお店だったら、このボーダーが絶対にオフホワイトじゃない。一番ありそうなのがピンク色。うん。ピンクならありそう。なぜならそっちの方が義君にも、聡衣君にも似合うから。  そんなかっこいい、もしくは綺麗な人にお似合いのお店だから。 「早く行かなくちゃっ」  お土産にはちょうどいいかなって思ったんだ。  かっこいい成徳さんに。  ネクタイとか。  前はスーツをあまり置いていなかったけれど、聡衣君の影響で少しスーツの品揃えが増えて、それに伴って、スーツに似合うアイテムも増えたから。  だから待ち合わせはお昼だけれど、その前、一時間の間に、義君のお店でお土産を買って行こうと思って。リズム感がしっかり身について、体力もついたおかげで、ぴょんぴょん、軽やかステップを踏みつつ、マンションを飛び出した。 「デート?」 「うん」 「………………デート?」 「だから、うん、ってば」 「なっ。デートってこの前」 「義君、いいから! 早く! これを包んでください! ネクタイ!」  深い青色が綺麗なネクタイ。成徳さんにとてもよく似合うと思うんだ。パッと見て「これ!」って思った。けれど、そんなにすぐに決めてしまっていいのかなって考え直して、でもやっぱり青色のが一番綺麗だったから。 「遅刻になってしまうから! 義君!」 「ちょ! 佳祐、まずデートって、誰? あのねっ、僕はそんなの聞いてないよ!」 「……言ってないもん」 「言ってっ!」  目、すごく大きくなった。あと、眉毛が、お正月にやる、ほら、従兄弟の、名前が出てこないけれど、従兄弟で神がかって上手な人がいたでしょ? 福笑い。あれで、とぼけた位置に置かれちゃった眉毛みたいに。眉がものすごく上に持ち上がった。  義君、一人で百面相みたいになってるよ? 「この前、もうそのことはいいみたいに言ってたでしょうが。そのあと連絡ないけど、佳祐のことだから仕事が忙しいんだろうなと思って、こっちからは特に何も言わずにいたけど。ようやく顔を見せたかと思ったら、デート? デートって、あのね。佳祐。ちゃんとその人は」 「大丈夫です」  はっきりとそう宣言した。 「とても優しい人です」 「……」 「お仕事も立派に務めてらっしゃいます。すごく多忙な方で。それでも僕のためにって時間を作ってくださったんです」  出張の後だって、新人教育とか色々大変そうだった。たまにメッセージをいただいて、そのメッセージにお返事をしても、そのお返事への返事が真夜中だったりもするくらい。  本当にお仕事を頑張っていらっしゃる人。  それでも、今日の貴重なお休みを僕のために使ってくれる。 「素敵な人なんです」  成徳さんのことを丁寧に丁寧に言葉にした。義君は目を見開いて、だんまりのまま僕を見つめてから、小さく溜め息を一つだけつくと。何色が彼は好きなの? って。  好きな色……伺ったことないや。 「じゃあ、彼に似合うのは青色? ネクタイと同じ」 「あ、うん」 「……かしこまりました」  そして、不器用な僕とは大違い。魔法のように義君の長い指がネクタイの入った箱にそれはそれは綺麗なリボンをつけてくれた。 「……行ってらっしゃい」 「はい。いってきます」  お花のような、とても素敵なリボンだった。

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