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第49話 君のことよくしてあげたい
「っぷ、くは……くすぐったい」
肌に、キスをしたら、成徳さんがそう言って笑った。
ちょうどおへその下辺りのところ。僕は、成徳さんがゆっくり丁寧に肌をなぞっていくようにキスしてくれるのがとてもドキドキして気持ち良かったから。だからきっと成徳さんもそうかなって思ったんだけど。
「佳祐の髪」
「?」
僕の、髪?
顔を上げると、心臓が止まってしまうかと思った。
「柔らかくて、触るとくすぐったいな」
そう言って、とても、優しく笑いながら僕の側頭部をまるで花束でも抱えるように丁寧に柔く触った。柔らかいと言ってくれた髪を指ですくように撫でられて。
「あんま無理しなくていいよ。佳祐、初めてでしょ」
なんだろう。
なんて言えばいいんだろう。
勉強はできるはずなのに、この気持ちを的確に表現する説明文が出てこない。
「佳祐……っ」
なんでもしてあげたいって思った。
僕が貴方のことをとにかく、たくさん……うん、きっとこれが一番しっくりくる。一番、ぴったりの表現。
「ン……ンく……ん、ん」
僕が貴方のことをたくさん、よくしてあげたい。
「ン、ンッ……ん」
上手じゃないだろうけれど。
そっと先端に口づけてから、今度は側面をパクって咥えて、あとは口に全部を入り切らないけれど、それでも入るところまでを咥えて、頬をキュッと窄めたり。あとは、丁寧に舐めて、みたり。あと、えっと、もう一回キスをしてみたり。それから、今度は……。
あんまりかもしれない。
半分も口に入り切らないし、辿々しいし、どうしたらいいのかわからないし。
だからきっと成徳さんがお付き合いしてきただろう女性と比べたら全然だろうけれど。
「っ、佳祐」
よくしてあげたいのに、全然、よくしてあげられてないかもしれないけれど、でも――。
「やば……佳祐」
一生懸命に口でほどこしてたら、そっと、また髪に指先を絡めて、頭を大きな手で撫でてくれた。
顔を上げると、成徳さんが。
「も、やばいから、離して」
わ、ぁ。
「佳祐っ」
呼吸、荒くしてくれた。
すごく苦しそうな顔をしてくれた。
「佳祐っやばいって」
「ン、や……もっと……」
「離っ」
「成徳さんの、したい」
そう言って、パクリと咥えたままもう一度、顔を見ようと視線を向けた瞬間。
「っ! ゲホっ、ゴホっ」
「! こら、佳祐、お前っ」
「ゲホっ…………ン」
「おいっ」
「!」
びっくりした。
「あのねぇ……ったく、水、ほら、うがいしろ。ペっ」
ペっ、しない、です。
お水だけ飲んで、それで、そのまま。
「コラっ、ほら、洗面所に」
「続き、よろしくお願いします」
「!」
「ここ……に、だから……成徳さんは、そのまま、寝てて」
ちょっとだけ、慣らした、から。ランニングとダンスだけじゃないんです。僕、ちゃんと、こっちだって、少しだけ、だけれど。でも、ちゃんと。
「ン、ンッ……あ、あぁっ……あ、ぁ……」
死んでしまうかもしれないくらいに恥ずかしいけれど、それでも、こうして、跨ったまま後をいじれば成徳さんには見えないから、まだ、いい。
「見ちゃ、ダメ」
後ろに自分の指を入れて、ちょっとだけ慣らして。
ローションだってちゃんとした。
中、ちゃんと。
「おま……」
「ン、成徳さん」
触れると、硬かった。よかった。やっぱり一回じゃ足りてないんだ。
よかった。
「僕がしてあげる、ン、です」
入るようにって、した、から。
「佳す、……」
「ン、あっ」
指なんかじゃ全然追いつかないくらい熱くて太くて、おかしくなっちゃいそうなくらい。僕のここ、成徳さんで。
「僕のここ、も、いっぱい」
好きな人の存在感でいっぱいになる。
「あ、あ、あ」
成徳さんで身体の奥までいっぱいに。
「あぁっ」
「っ」
「あ、あ、あ」
腰をあげると背中に電気が走ったみたいに、ビリビリした。
「あああっ……ン」
腰を下ろすと、その存在感で胸がいっぱいになって、クラクラする。
「ひゃ……ぁ、ン」
また腰をあげると、今度は中が擦られて、切なくなる。気持ち良くて、溶けてしまいそうで、足の付け根から快感で震えて、力が入らなくなってしまう。もっとちゃんと動かないと、成徳さんのこと気持ち良くしてあげられないのに。なのに、身体の力が抜けていく。
「あ、や……ダメっ」
肩にしがみついて、どうにか腰を動かそうとした時、成徳さんが僕の中を小さく突き上げた。
「ひゃ、んっ、だ、メ、動いちゃっ」
「っ」
「僕がしてあげますっ」
「佳祐、すごいトロトロな顔してる。力入らないんでしょ」
「や、ダメ」
「なんで。してあげるよ。さっき、俺はしてもらったし」
「や、まだ、足りない、から」
「?」
「僕がするんです」
「佳祐?」
中、突き上げられたまま、奥までいっぱいに熱くて、大きくて、言葉を口にするだけで震えてしまうけれど。
「だって、僕、成徳さんに満足してもらいたいんです」
「……なんで?」
その震えてしまう口を自分の手の甲で押さえ手。
「だって、僕、体力ないので」
「は?」
「リズム感もなくて」
「はぁ?」
――ったく。なんだよ、もうっ。
「初めての時、そう言ってました。なんだよもうって、だから、成徳さんが欲求不満だと思うので」
「はあぁぁ?」
「だから、僕、と、はっ!」
世界がぐるりと傾いた。のではなくて、僕がそのままベッドに押し倒された。
「ン」
繋がったままで、勝手に口から声が溢れた。
「ン……ン」
溢れたけれど、それは全部成徳さんに食べられた。
「っぷ、は……成徳さん?」
「ったく、なんだよ、もう、本当」
あ、ほらまたあの時と同じ言葉。
「可愛すぎるだろ」
けれど、あの時にはなかった続きの言葉があった。
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