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第50話 可愛くてたまらない

 僕が上手じゃないからだと思った。  一回だけじゃ物足りなかったのだと思った。  同性の僕とではやっぱり気持ち良くなかったのだと、思った。  だから、確かに忙しかったのだろうけれど、それだけがその一回きりで、ずっともうしなかった理由ではないと、そう思った。  けれど僕は諦めないって決めたから、成徳さんに振り向いてもらおうとして、毎日うちのマンションの周りを走ったりしたんです。それからリズム感あると、その、セクシーな、えっと、なんというか、腰の動かし方ができるかなって、思って。  どれも最初は全然ダメで。なるほど、これは確かに「全くなんなんだ」とぼやかれてしまうのも仕方がないって思ったし。だからもっと頑張らないとって。 「ひゃ、あっ……ぁ、あっ」 「それで今日はあんなに頑張ったの?」 「そう、ひゃああっ、ン……ぁ、ン、です……」  クンと奥を突かれて、弓形に反った身体に成徳さんがキスをした。 「あっ……ン」  乳首のところをキュッと吸われて、肌にチリリと刺激が与えられると、なんだか切ないくらいに気持ち良くて、思わず自分の口元を手の甲で押さえた。 「胸、だって……おっ…………ぱぃ、ないです、し」  声が尻すぼみに小さくなっていく。  胸のところ、ほら、ここだって、成徳さんが今まで夜を共にしてきた女性に比べたら、面白味に欠けるでしょう? 胸には乳房はなくて、揉んだところで……というか揉めるような柔らかい部分なんて一つもなくて。 「ひゃあああっ、あ、あっ、激し、ぃっ」  腰を鷲掴みにされて、深くまで貫かれると、たまらなくなってしまう。  でも、その腰だって、骨っぽくて掴んでいても柔らかさはない。女性なら腰回りに多少の肉付きがあって、抱き締めてもきっと柔らかい心地がするんじゃないかなって。僕は抱きしめても骨っぽくて、あまり心地の良いものではないのではないかなって。 「あとは?」 「へ? あっ、あ」 「あとは、俺が、全くなんだよって言った理由だと、勘違いしたところは?」 「あ、あとはっ、あと、はっ……あ、あ、あ」 「ほら、あとは?」  繋がれる場所、違うでしょう?  その女性とは、違うから。 「き……」 「き?」  だから。 「気持ちいい、ですか?」  恐る恐る尋ねた。  そっと、そーっと、違っていませんように、気持ち良くなっていてくれてますようにって願いながら。 「…………」  成徳さんが僕のことをじっと見つめていた。  見つめて、それで、覆いかぶさるように手をついた。 「気持ちいいよ」 「!」 「あと」  あと? 「めちゃくちゃ可愛いって思ってる」 「!」 「振り向いても何もないでしょ。っていうか君しか見てないし」 「!」 「あのあと、本当に仕事が忙しかった。君の方もかなり忙しかったでしょ? って、まぁ、お互いに暇になることなんてほぼない仕事だけど。その中でも、顔だけでも見たいって夕飯誘って」 「ぁ……ン」  成徳さんが中をゆっくり、感触を確かめるように中を擦っていく。 「使えない新人にいつもならイライラするところが、君の顔見ただけで癒されて」 「あぁ、あ、そこっ」 「ここ?」  コクンと頷くと、優しく、そこを責めてくれる。 「昨日なんて君に会えるから上機嫌だったし」 「あっ」  ずるりと抜けかけるところまで腰を引かれると切なくなった。 「この前、デートの時に俺の同級生でアイドルしてるって言ったの。覚えてる?」 「あっ」  覚えてる。すごくすごく可愛らしい方だった。あんな可愛い人が周囲にいらっしゃるなんてって。  そして少しの劣等感を。 「顔の可愛いのなら周囲にいるけど」 「あっ、成徳、さんっ」 「まるごと可愛くて、なんだよってぼやきたくなったことはなかったよ」 「あっ」  劣等感を感じていたのに。 「一番可愛い」 「あっ!」  小さく奥をノックされて、きゅっと成徳さんの肩にしがみついた。 「今日だって、早く会えるとかはしゃいで、呆れるくらい早く待ち合わせ場所に行ったし」 「あああっ……」  今度はその切なくなった身体を満たしてくれるように、奥までゆっくりいっぱいに貫かれて震えるくらいに気持ちいい。 「なのに、なんなの、本当に……」 「あ、あ、あっ」  気持ちいい。 「佳祐」  名前を呼ばれるだけで、胸のところがキュンってする。 「はい」 「あんま、可愛いこと言わないでよ」 「?」 「一回で済ませてあげられなくなるじゃん」 「あっ」 「物足りないとかじゃないからね」 「あ、あっ」 「一応、またそんな可愛いこと考えられたら、本当さ」 「ンっ……あ」  ど、しよ。 「成徳、さん」 「ん?」 「……嬉しい、よかった」  貴方のことが好きでたまらない。 「あ、ひゃあああっ、あ、あ、成徳さんのっ、中で」  ビクンって跳ねた。跳ねて、僕の中が驚いて、キュッと彼を締め付けてしまう。 「ったく、さぁ……」 「あっ」 「ホント……」  それはゾクゾクしてしまう声。 「あ、中……気持ち、ぃ」  好きすぎて、どうにかなってしまいそう。  優しくしたいのに、と耳元で囁かれて、どうにかなってしまう。 「いい、です……」 「佳、」 「優しくしなくて、いい……です」  そっと彼の頬を両手で包んで、引き寄せる。 「成徳さんの好きに、してください」  そう告白しながら、キスをした。これだってまだ全然下手でしょう? ディープキス、とっても下手。 「好きに、して」  唇を触れ合わせたまま、そう告げた。 「あぁっ……ン、あ、あ、あ」  首筋にキスをされるだけで奥が、成徳さんの熱に突き上げられてる奥がぎゅっと彼にしがみつく。 「あ、あ、あ、ダメ、もぉ」  何度も何度も、強く突き上げられて、もうその背中にしがみつくくらいしかできない。気持ち良くて、快感がつま先まで駆け巡って、指先が痺れてしまう。 「あ、ダメ、僕」 「佳祐」 「あ、成徳さんっ、成徳、さんっ、僕っ、僕っ」  だから、とろとろに蕩けた身体で大好きな人にしがみついた。もっとして欲しくて、もっとたくさん繋がりたくて。もっと。 「好きだよ」 「あ、あ、あっ、イクっ、いっちゃうっ」  もっと可愛がられたくて、一生懸命しがみつきながら。 「僕も、好き……成徳さんっ」  キスをした。達しながらするキスは息の仕方がわからなくて、クラクラしてしまったけれど、世界で一番幸せだと実感してしまうようなそんな気持ちのいいキスだった。

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