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第57話 暴れん坊

「ン……ン、ふっ……」  まだ、玄関なのに。  靴も脱いでないのに。  呼吸も乱れてしまうようなキスを交わして。角度を変えて何度も口の中を熱い舌で弄られると立っていられない。玄関の壁に強かに背中を打ち付けてしまうと、その僕の背中を大きくて優しい手が支えてくれる。もう片方の手が僕の腰を引き寄せて、身体を密着させながら、キスに翻弄される僕のことを支えてくれる。  舌が――。 「あっ……ふ」  僕の口の中をとろけさせる。  気持ちいいキスを成徳さんがやめてしまわないように、ぎゅっとその首にしがみついて、自分からも積極的に舌を伸ばして絡ませた。  唾液、こぼれてしまいそうで恥ずかしいのに。それでもたくさん口を開けて、成徳さんの舌に答える。 「ン、あっ……ぁ」  こんな気持ち、初めて。 「あ、成徳さんっ」  したくて、たまらない、なんて。 「あ、あ、待って、あのっ」  早く、早くって。 「あの、シャワーだけ、浴びてきます」 「……佳祐」  この人が欲しくてたまらないって、身体が熱くなる。 「待っててください。すぐ出る、ので」  ほら。  欲しくて、喉奥が熱いから言葉がつっかえてしまう。言葉よりも熱が喉奥ではしゃいで、ジタバタしていて、何度も唾を飲み込んでる。きっと顔だって真っ赤でしょう? のぼせてしまってるんだ。お風呂のお湯に長く浸かっていたわけでもないのに、頬が触らなくてもわかる。熱くて、真っ赤。  真っ赤っか。 「……成徳さん」  これは大変。 「洗ってくるので、待っててもらえませんか?」  どうしよう。 「あの、部屋に、いてください」  この人がどうしても欲しくてたまらない。  貴方としたいんです。だから、どこにも行かないで。部屋で待ってて。手がぎゅっと成徳さんの肩にしがみつく。 「どこにも……」  行かないでって、もう一度、今度は僕から、まだ不慣れだけれど、舌を忍び込ませてキスをした。 「ン」 「ホント、佳祐ってさ……」 「あっ……ふっ、ぅ……ン」 「なんだろーね、マジで」 「あっ、待っ……」  成徳さんの手がシャツの上から僕の背中を撫でた。その指先から何か出てるみたいに、布越しなのに、もうビリビリと電気が走る。 「あ、あ、あ」  ゾクゾクする。 「あぁっ……ン」  長い指がするりと忍び込んだのはスラックスの中。 「あ、あっ」 「キスだけでこんな?」 「あっ、だって」  握られると、かぁって羞恥心が頬を染めさせる。下着の中でくちゅりと音を立てて、前を扱かれると切ないくらいに気持ちいい。  その掌に夢中になっている僕を成徳さんが見つめながら、キスでたくさん濡れた僕の唇を指でなぞって。 「……ン、む」  そのまま舌もその指で撫でられた。 「口で咥えて」 「ン、ン」  言われるまま、その指を口に咥えて、まるでさっきしてもらったキスみたいに舌先を巻きつけて、ちゅって吸ってみた。 「佳祐」 「あっ」  その、僕の口の中で濡らした指が、背中から、下着の中に指が侵入してきて、そのままお尻のとこ。 「あ、待っ」  お尻の割れ目に挟まるように指が、僕の中に。 「あっ」  同時に、いつの間にか外されていたベルト。チャックを下されて、スラックスが腰から滑り落ちるけれど、でも、足元に落っこちないのには成徳さんの膝が僕の足の間に割り込んでいるから。  立っていられないくらい、キスと指に翻弄されてしまう僕はそのまましがみついているしかなくて。 「あ、あ、あ、あ」  前も後ろも、一緒に可愛がられると、勝手に腰が揺れてしまう。  まだ玄関なのに。  まだ靴も履いたままなのに。  まだ、帰ってきたばかりなのに。  僕は、もう――。 「あ、あ、あ、成徳さんっ、僕、僕っ」 「佳祐」 「ダメ、イッちゃい、ますっ」  スーツに、大事な彼の仕事着に皺がついてしまうから、しがみついたらいけないってわかってるのに。そのスーツに肩に鼻先を埋めながら。 「っ、ぅっ……んんんんっ」 「佳祐」  耳にキスをされながら。  成徳さんの手が僕の前を握って扱いてくれる。 「やぁっ……ダメ、ダメっ我慢、できなっ、あ、あ」  成徳さんの長い指が、後ろから、中を撫でてくれる。  そこ、ダメなとこ。気持ち良くて、そこを擦られるとお腹の奥、僕の知らなかった場所がキュってするところ。そこを撫でながら、前も、扱かれて。 「あっ」  少し掠れた声で名前を呼ばれただけで。 「あっ…………っっっっ」  成徳さんの腕の中で、ビクンって身体を揺らして、下着の中、僕のそれをキュッと握っていてくれた手の中をたくさん、濡らしてしまった。 「あ、はっ……っ」  ど、しよう。  こんな場所で、達して。 「佳祐」 「あっ……ン」  はしたないのに。いけないことなのに。  とろけてしまう。 「佳祐」 「あ、ン」  首筋にキスをされただけで、ほら、腰が揺れて、スラックスの中で、成徳さんのびしょ濡れにさせてしまった掌にまだ擦り付けてる。 「成徳さ……ぁ……ン」  はしたない、ですよね。でも、抑えきれない。嬉しくてたまらないんです。僕が差し上げたネクタイをしてくれた。お見合いを、断ってくれた。  まるで、当たり前みたいに。恋人がいるからと。  僕がその恋人で。  成徳さんは僕の恋人で。  嬉しくてたまらない。 「僕、成徳さんが好きです」 「……」 「大好き」  知らなかったんです。 「早く、したい、です」  知らなかった。  我慢なんてできそうにない代物だなんて、知らなかった。  わがままで、自分勝手で、せっかちで、なんて……強欲。 「成徳さん……」  恋って、こんなに暴れるんだ。

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