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成徳視点 2 やんない

 赤の他人、いや、職場の人間でもなんでも、別に他人にどう思われたって気にしなかった。  今もまぁ気にしてない。  有能な奴はニコニコしなくたって仕事はこなすし、無能な奴はニコニコして愛想が良くても悪くても、仕事はできない。  仕事は、仕事、だ。  大事なのは実力。  愛想は必要な場合には振りまくし、必要がなければ、引っ込めるだけ。  誰かに好かれたいと思ったことは、ない。 「成徳さん! できあがりです!」 「あぁ」  なかった、んだけどな。 「あったかいうちに食べましょう」 「あぁ」  ニコニコ顔の佳祐が嬉しそうにお気に入りのテラスの軒先に腰を下ろした。その足元にアウトドア用のストーブを置いてやると、ポッと頬を染めて笑ってる。 「少し小さいな」 「でも、僕、このストーブすごく好きです。可愛い」  一人用のストーブは中心に合金の発熱する芯があって、その周りをぐるりとへ熱を周囲に広げる金属で覆われていて、最大火力すると、ほわりとその金属が赤く色づくようになっていた。佳祐が気に入っているのはこの金属にまるで絵巻のように動物たちのシルエットが刻まれていること。赤くなった金属の色々な動物たちのシルエットがほわりと浮かぶようになっている。それが気に入っているらしい。寒い時にテントを貼ってキャンプをした時、これを使ったら、やたらと嬉しそうにはしゃいでた。  今日もそれを出してやったら、嬉しそうに冬ですねって呟いていた。 「ほら、これ、膝にかけとけよ」 「……」 「そしたら一緒にあったかいだろ」  二人で並んで足元には佳祐お気に入りのストーブと、膝には大きなストール。俺ばっかあったまったって仕方がない。そもそも寒いのには慣れてるんだ。だからこの程度どうってことない。けど、案外頑固な佳祐は俺が暖かくしてないと気がすまないみたいだから。  これならいいだろう。 「ありがとうございます」 「……どういたしまして」  そしてあったかいと呟いた佳祐が可愛いと、小さく胸の内で思って。 「ほら、食おう。冷めるから」 「はいっ」  俺はさ、デレるキャラじゃないんだ。  だからフツーの顔をしながら、そこに腰を下ろした。 「では、いただきます」  嬉しそうに赤く染まった柔らかい佳祐のほっぺたに、ちょっとだけ口元が緩みつつ、それを誤魔化すように、でかい一口でカレーを食べた。 「うっま……なんだこれ」 「ホントですね。美味しいです。こんなふうになるんですね。すごいです」 「野菜ジュースだっけ?」 「はい。大胆にどっばどっば使ってくださいと教えていただいて」 「ふーん、すごいな水の代わりに野菜ジュース使うだけでこんなに変わるのか」  全然味が違う。味の批評家みたいなことをするつもりはないけど、確かに美味い。 「すごいですよね」 「職場で教わったんだっけ?」 「はい。新しく入ったスタッフの女性なんですが。趣味がお料理らしくて。僕は、お料理上手じゃないとお話ししたら、色々教えてくれたんです」 「ふーん」  へぇ。女性スタッフ、か。 「それですね、たまたま動画でキャンプでカレーを作るのを拝見して勉強していたら、そのスタッフの女性が美味しいカレーの作り方を教えてくださって」 「へぇ」  まぁ、物件として、最良だよな。  議員秘書で、人柄もいい。素直で、人当たりも抜群。真面目すぎるくらいかもしれないが、パートナーとするなら、このくらい真面目でちょうどいいだろ。 「一番得意なのは無水カレーなんだそうです。でも、それは僕には難しそうだったので、少しでいいから水分をって言って、この方法を。無水カレーの方が得意なのに、僕にも作れるカレーを教えてくださって、感謝なんです」  何より、見た目もいい。 「っぷ」 「?」 「いや、別に」  狙われてるって、知らないんだろうな。  まぁ、カレーは美味かったし。佳祐が嬉しそうにしてるから別にいいけどさ。  おかわりするくらい気に入ってるみたいだし 「その女性スタッフ、名前は?」 「? 福島さんです」 「福島ね」 「? はい」  一応、覚えておこう、かな。  福島、さんね。 「まぁ、別に入り込める隙間なんてないけどな」 「?」  佳祐は何が何だかわからないんだろう。首を傾げて、後ろを振り返っている。多分「隙間」の意味を考えた結果、行き着いたのが、窓の隙間、とかだったのかもしれない。 「ほら、おかわりのカレー」 「あ! すみませんっ。ありがとうございます」 「けど、美味いな。このカレー」 「はい! 今度、義君にも教えてあげようと思います」 「あぁ。そうね。いいんじゃない」 「はい」  その福島さんの意図は全く汲み取れていないだろう佳祐が嬉しそうに二杯目のカレーを平らげていた。  オーソドックスすぎて笑えてくるけど、きっとその彼女は料理が美味い女性って印象つけて、そこから潜り込みたかたんだろうな。じゃあ、今度無水カレー作って差し上げますとか言い出すかもしれない。そこからの発展を願ったのかもしれないけど。 「……天然」 「?」  この天然は、やらないよ。 「! す、すみません。ほっぺたにカレーでも」  カレーを本当にほっぺたにくっつけていそうな柔らかいその頬に触れてから。 「カレーがくっついてたわけじゃないから」 「あ、そう、」  まだ何か天然っぷりを発揮してお喋りしようとする口にキスをした。 「……」  ホント、自分がこんなにハマるとは思わなかった。 「っぷ、カレー味」 「! す、すみま、」  まさか、誰か一人にこんなにさ……。 「カレー楽しかったな」  思わず笑うと、佳祐が真っ直ぐ俺だけを見つめるから、くすぐったくて、何かが満ちた気がした。

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