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メリークリスマス編 4 ハニー?

 僕は、この恋はちゃんと頑張ると決めているので。  今、こうしてお付き合いをしている今もそれは変わらないので。  頑張りたいんです。 「お待たせしましたぁ。オムライスセットになります」 「ありがとうございます」  ぺこりと頭を下げて、大好きなオムライスにお腹の虫が小さく「ぎゅううう」と返事をした。  職場近くに新しくできたオムライス専門店。すごくお気に入りで、時間がある時はここでお昼ご飯にするのだけれど。最近、忙しかったのと、外出が多くて来れなかった。  ふっくら楕円の綺麗な卵に、思わず、ニコッとしてしまう。 「いただきます」  今度はそんな素敵オムライスにぺこりと頭を下げて、大きいスプーンをぎゅっと握り、大きく一口でパクッと食べた。  美味しいなぁ。  このくらい卵がふわりトロトロにできたらいいのになぁ。成徳さんに作って差し上げたいなぁ。成徳さんもオムライスお好きだから。  その一口にほっぺたが、きゅっと上がる。もぐもぐと食べながら、窓の外に目を向けると、あっちこっちのお店がクリスマスっぽい赤と緑で飾り付けをしていた。  クリスマスだ。  今年は、平日だけれど一緒に過ごせそうで、とても楽しみにしてる。  もちろん、クリスマスプレゼントも買いました。アルコイリスで。他の高級百貨店の品もとても上質で素敵なのだけれど、なんというか、やっぱりアルコイリスのあの暖かな雰囲気が僕はとても気に入っていて。百貨店を巡ってしっくり来なくて、結局、いつも通りアルコイリスで買ってしまった。  王道だけれど、手袋とタイピンで迷って、タイピンを。  手袋、渋いグリーンの革のものがとても綺麗な色味で素敵だったのだけれど、冬しか使えないから。それならタイピンの方がいつでも成徳さんのお役に立てるかなって。  けれど、それだけじゃなくて。  今回はもう一つ、贈りたい。  僕も、したい。  僕も、成徳さんをクリスマスにデレデレにしてみたい。  僕はこの恋は頑張るって決めているから。  だから、僕もセクシーに。  セクシーに、かぁ。  セクシー…………うーん。  僕が、セクシー。  うーん。 「……えっと」  そんな時は調べてみましょう。  ご飯中のスマホはオムライスにとても失礼だから。  しっかり味わって、いただいて。 「ふぅ、ごちそうさまでした」  食べ終わり、きれいになったお皿にお辞儀をし、スプーンの代わりにテーブルの上に置いていたスマホを手に取った。  検索はセクシー、クリスマス、とかはどうでしょう。これは辞書で調べるよりもネットの方がいいでしょう? 「検索…………ひひゃっ!」  びっくりして、思わずスマホの画面をテーブルの上に向かって打ち付けてしまった。 「あわわっ」  勢い良くスマホを当てたせいで、テーブルに傷がついてしまったんじゃと、慌ててテーブルを確認して、無傷無事にほっと胸を撫で下ろして。  それから慌てて伏せてしまったスマホの画面を通りかかるかもしれないお客さんやお店の方に見えないように、隣席との境目にある衝立代わりの観葉植物の方へ向けながら、こっそり、慎重に開いてみた。  こ、こ。  これ。  驚いた。  だって、セクシーで、ら、ら、らら、ランジェリーが出てくるから。 「……ひゃ……」  クリスマス特集、だそうです。  恐る恐る、そのページに飛んでみた、けれど。 「ひゃ……わ……」  すごい、下着ですが。  ひぇぇ。これは女性のその、それぞれに隠されるべき場所が全部、丸見えなんですけれど。ただその周りをふわふわとしたファーで縁取っているだけで、隠す用途は全く達成できてない、です。モデルさんは全身タイツをはいてるので、あれもこれもベージュ一色で覆われているけれど、でも、これ、タイツ着ていなかったら大変なことに。  わ、こっちは、全部透けてる。  透け透け。  丸見え。  それに、サンタさんと思われる、赤いスケスケ布の肌着のようなものを着ているけれど、頭にはトナカイさんの角があって、サンタさんとトナカイさんが混在してるというか。定義的に謎の生物になってしまってますけど。 「…………?」  これは…………ただの紐なのでは?  ただの紐が白い画面の上に広げて置いてある。ただそれだけ。ちょっとあやとりのはしごみたい。もうこれ、下着というカテゴリーにそもそも分類していいのでしょうか。アンダーウエア、と言っていいのでしょうか。これはどうやって着たら……というか、これ、着る、と言っていいのか、どうか。どうなのでしょう。  足は……多分ここから出すと思うんです。  多分ですけど、これがセクシーに……なるのかな。あやとりランジェリー。 「クリスマス用に買ったとこ、オススメだよ」 「えー、どんなのどんなの?」 「これ、ここさぁ、元セクシー女優の人がやってるブランドでー」 「わ。可愛いー、いいじゃん」  そんな会話が聞こえてきた。  隣の、観葉植物が目隠しになっていてお顔は見えないけれど、隣のテーブルの、女性二人のお話。 「えー、いいな。これとか彼氏好きそう」  聞いちゃいけないと思います。はい。盗み聞きは犯罪ではないけれど、とっても失礼だと思うんです。でも、でも、ちょっとだけ。  元セクシー女優さんのブランドなんですね。  ふむ。 「いいかもー」  いいかもなんですね。 「私もポチる」  ポチ……る。  なるほど、ネット通販。  この前、先生がお話を伺った、市長さんもネット通販が普及した今、市内に物流の大規模な拠点を考えてると仰ってました。  ふむふむ。  セクシー女優さん、お名前分からなくても探せるかな。探してみよう。  僕も。 「これも可愛いかも」 「本当だー。いいじゃん。クリスマスっぽくて」 「でしょでしょ」  クリスマスに、してみたいので。  成徳さんのことデレデレにしてみたい。 「……ぁ」  その願いを神様が聞いてくれたのかもしれない。  お隣の女性たちが見ているのと同じサイトかは分からないけれど。  可愛らしい女性が写っている通販ホームページには、セクシーだけれど、可愛らしいランジェリーがずらりと並んでいて。 「クリスマスデートで、いいよね。盛り上がりそう」  あまり過激すぎると僕も着用する勇気がないのですが。 「!」  このくらいなら、いけそうな気がするんです。  僕でも、着用。  ――これを俺のために? ハニー。  これなら、成徳さんをきっとメロメロに。  ――素敵だよ。ハニー。  できる気がするんです。

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