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ヤキモチエッセンス編 6 再来週の週末ね。オッケー、と、河野は、笑った。

 若者はどのような場所での歓迎会が嬉しいんでしょう。  若いし、柔道部だったし、やっぱり焼肉? あっ、いえ、あの運動をする方全てが焼肉に喜ぶとは思ってないです。それは、はい、そんな偏見は持ってないです。どんな屈強なアスリートであっても焼肉は大の苦手、という方ももちろんいらっしゃるかと思いますから。  ただ焼肉はお好きな方が多いかなぁと。  でも、うーん、先生は正直そんなにお肉は食べないので。お魚の方がお好きなので。  秘書内の女性陣も焼肉よりかは素敵で華やかなお店の方がお好きかと。あ! いえ! 焼肉屋さんが華やかなじゃないと言いたいわけではなくてですねっ。 「う、うーん……」  とりあえず、越前くんの歓迎会の場所を決めないとです。 「どうかしたんですか?」 「は、はぎゃっ」  思わず、とてもおかしな声が出てしまった。 「え、越前くんっ」 「お疲れ様です」  今日は会館内にある食堂でお昼をいただいていた。そこに越前くんが突然現れて、僕は飛び上がってしまった。 「どうかしたんですか? なんか唸ってたから」 「ぁ、いえ」  そうだ。ご本人に確認するのが一番早くて、失敗しないかなと思うのです。 「えと」 「はい! 俺、じゃなくて、僕でわかること、できることならなんでもします」 「ありがとうございます」  むしろ、越前くんにしかわからないし。越前くんだから答えられることなんです、と思ってにっこりと笑いかけた。 「焼肉と和食、オシャレなイタリアン、どれがいいですか?」 「え、えぇっ!」 「越前くんの歓迎会」 「あ…………そっち」 「? 焼肉、和食、イタリアン、じゃない、あっちとか、ありますか?」  もちろん、他にも美味しい郷土料理はありますけれど。  越前くんは、そういうことじゃなくて、あはは、と笑ってる。 「焼肉は男性みなさん、お好きだと思うんです。僕はすき焼きも好きです」  成徳さんと、義くんたち、聡衣くんたちとで会食した時のすき焼きは美味しかったなぁ。  越前くんは今日、ランチ、竜田揚げ定食にしたんですね。美味しいですよ? ここの竜田揚げは中がふっくらジューシーで外はカリカリで。僕もすごく好きです。やっぱりお肉がいいですよね? お若いから。 「でも、先生は和食がお好きだし、女性陣は、やっぱりオシャレなお店だと喜んでくださると思うので」  だから悩んでいたんです、どうしましょうか。と、招待するべき相手に伺ってしまった。本来はそのあたり、全ての方の好みに寄り添って決めて行けたら一番良いと思うのですが。 「どこでもいいです」 「いいんですよ? 焼肉でも、イタリアンでも。主人公の越前くんが決めていいことなので」 「本当にどこでも。あの」 「はい」  そこで越前くんが、一度、コクンと息を飲み込んだ。もしかして、もっと高級レストランがいいとかなのだろうか。それかさすが元柔道部、全国大会出場者、ということで、大食いのできる食べ放題のレストランとか。ホテルでもたまにディナービュッフェを催してる場所もあるから。 「あの、蒲田さんと、とかと、一緒にご飯できたら、全然」 「!」  あまりに欲がなくてびっくりしてしまった。 「あ! いえ、こんな機会、滅多にないっていうか、その、他の秘書の方も優しいし、丁寧に教えてくれるんで」 「それはよかったです」 「だから、あの、みんなが喜んでくれるところがいいです」 「!」  わぁ、なんて優しいのだろう。 「承知しました。越前くん含め、皆さんが喜んでくださる場所を考えますね」  そして、あまりに素晴らしい越前くんの気遣いに思わず顔を綻ばせた。 「歓迎会の場所?」 「はい。どこか、良い場所を成徳さんなら知ってるかなって思いまして」  じっと、成徳さんが僕を見つめてから、はぁ、と一つ溜め息をついた。 「……また……次から次へと」 「? あの」  何か今、呟かれたけれど、上手に聞き取れなかった。成徳さんの低い声がボリューム最小限にしてしまうと、ちょっと聞き取りずらくて。また……までは聞こえたけれど。 「なんでもない。この前、同僚が行ったっていうレストラン、良さそうだったな」 「そうなんですか?」 「あぁ、和食。個室になっていて、テーブルに椅子だから、女性でもいいんじゃないか? 女性だと靴を脱ぐの好まないこともあるだろ」  なるほど。しかも和食なら、先生にもピッタリだ。 「コースで出るらしいけど、ステーキが美味かったって」  わ。それはとてもいいですね。お肉がちゃんと出るのなら越前くんにも喜んでいただけそうです。 「いつ?」 「?」 「その新人の歓迎会」 「あ、予約、取れるといいのですが、再来週の週末を考えてます」 「……オッケー」 「?」 「なんでもないよ。じゃあ、その日は帰りが少し遅くなるんだな」 「はい」  でもそんなに遅くはならないです。二次会のようなものも予定していないので。だって二次会もあったら帰りが遅くなってしまう。帰りが遅くなったら――。 「成徳さん」 「?」 「あのっ」  帰りが遅くなったら、その夜は成徳さんと、その、あの、してもらえない、から。 「えと……ン、ん」  キスも、こういうのも。 「佳祐」 「ぁ……あの、今夜は……」  そして、ぎゅっと抱き抱えられて。 「あ、ン」 「するに決まってるじゃん」  腕に閉じ込めてもらえて、心臓がドキドキしていた。

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