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ヤキモチエッセンス編 9 朝、賢者タイム来そうだけど、いっか、と、河野は、笑った。

 成徳さんがヤキモチしてくれた。  越前くんを牽制して、歓迎会のところまで迎えに来てくれて、しかも、なんと、そのままさらってくれた。  越前くんに自分がパートナーだからと宣伝もしてくれた。  それだけじゃなくて、噂広まったら大変かもしれないのに、もうこれからそのパートナーが変更されることはないから構わないなんて。ずっと一生一緒っていう意味になってしまうのに笑ってくれた。  それに。  あぁ、顔がニヤニヤしてしまいます。だって、成徳さんが僕のことを、なんと、世界で一番可愛いって、言ってくれたんです。  世界一かっこいいと思う成徳さんにそんなことを言って貰えてしまったら。  ねぇ、こんなことがあったら溶けちゃいます。  嬉しくて、舞い上がってしまいます。  どうしましょう。 「どうしようか」 「!」  まるで僕の心の中を読んだかのように上半身裸の成徳さんがポツリと呟いてから、洗ったまま、セットされてない素の髪をかき上げた。  僕は、この時の成徳さんは世界でい一番セクシーだと思います。  ベッドで、まだ上下共に家着姿の僕はうっとりと見上げながら、そんなことを思ってた。 「あの新人の話をベッドの中で無邪気に毎回俺にしてきたりして、ストレス溜まってたから」  えぇ! それは、すみません。いつもと同じように話してしまってました。  毎晩、こんなことがあった、あんなことがあって大変で、こうなって疲れた、って日々、お互いの様子を話す中の一つ、のつもりだったのだけれど。 「今日は、意地悪しようかな」  それは、どうしましょう。 「めちゃくちゃ可愛がって、とろとろにしようか」  それも、ど、どうしましょう。 「どっちにしようか」 「……ぁ」  恐る恐る、たくましい筋肉のついた裸の胸に手を置いた。 「あの……僕はどちらでも」 「……」 「その、どちらでも、僕はきっと」  スーツを着ている時はスラっとしているのに、脱ぐとたくましいんです。そのギャップにクラクラします。これが世に言うギャップ萌えというものなのでしょうか。  どんな成徳さんも好きです。  スラっとしていても。  筋肉もりもりしていても。  どんな貴方も大好きです。  それが伝わるように、胸のところにキスをした。そっと、優しく、唇で触れて。トクトク聞こえる胸に頬をくっつけたくて、ぎゅっと背中に腕を回してしがみついた。 「意地悪されたって気持ち良くて嬉しくて、可愛がっていただけても気持ち良くて、どっちにしても気持ちいいので」  今日は、ヤキモチしてくれた成徳さんにとてもときめいているので、いつも以上に夜の営みは気持ち良くて幸福感が溢れて止まらないだろうから。 「とろとろになってしまうと思います」  だから、どっちでもいいですって、小さく呟いてから、たくましい成徳さんの首に手を回して抱きついた。  ギュッて、早くしたいですって、しがみついた。 「あっ……ン」  自分の甘い声が寝室に響いて、僕はちょっとだけ狼狽えてしまう。ずっと、ひとりでいたし、ずっと今後もひとりだと思っていたから。  こうして、抱き合うことも無いと思っていた。  だから、あんなふうに妬いてもらえるとかも、自分には無縁なことだと思ってた。  恋人に妬いてもらえるなんて。 「? どうかした?」  成徳さんの膝の上に一糸纏わぬ姿で跨るような格好で座っていた。肌に触れてくれる唇がとても気持ち良くて、僕があまりにぎゅっとしがみつくものだから、ちょっと髪が乱れてしまっている。その髪を掻き上げながら、僕をじっと見上げてくれる。 「俺の顔になんか付いてた?」  色っぽく微笑まれて、胸がキュンって締め付けられていただけです。  僕が成徳さんの恋人になれて嬉しいなぁって思っていただけです。 「いえ、かっこいいなぁって思ったんです」 「……」 「あの、越前くんのことですが、僕、他の方に目移りしないです」  それがどこかの王様とかでも、大人気の俳優さんとかでも、誰に好まれようとも、そちらに傾くことなんてしないです。 「成徳さんが大好きなんです」 「……」 「だから、心配しないでください」  そう告げたら、僕にキスをしてくれた。優しく触れるだけのキスをして、唇が離れると、その口元が小さく微笑んでくれる。 「オッケー」 「ン……ん」  今度は深くて絡まり合う、濃厚なキス。  辿々しくも僕の成徳さんの舌先に答えて絡みつかせると、大きな手が背中をさすってくれた。あったかくて、さらりとした指先はとても気持ちが良くて、なんだかとろりと蕩けるような心地がしてくる。 「ン、ん……ン、ぁ……ふ……」  その手がするりと下へ降りていく。  自然に腰を上げてしまったら。 「あっ」  優しく微笑んででくれた唇が僕の小さな乳首を吸ってくれて、指先はクチュリと甘い音を立てながら、僕の中に入ってきてくれた。 「あ、あぁ……ン」  長い指がいつものように僕の中を解してくれて。 「あぁっ……成徳さんっ」  優しい唇に、舌先に、歯に、乳首をたくさん可愛がってもらえて。 「あっン」  たまらなく気持ちいいです。 「ぁ……ン、成徳さん」 「どうしようか」 「?」 「なんか今日は」  えぇ、何か今日は、ダメ、ですか? その、その気にならなそうですか? 「明日の朝、冷静になった時」  思わず、じっと成徳さんを見つめてしまう。 「後悔しそうなくらい」  今日は夜の営みが中止になってしまうのではないかと。 「気恥ずかしいこと口走りそうなんだけど」 「!」  よかった。 「佳祐?」  ホッとして抱きついてしまいました。 「ぜひ」 「……」 「聞きたいです。僕はきっと明日の朝、いただけた言葉にニコニコしちゃって仕方ないと思うので、ぜひ」  お願いします。  そう言おうと思ったけれど。 「一生」  きつく抱き締めてもらえて、言えなかった。 「はい」 「俺から離れるなよ」 「はい」 「ずっと」 「はい。僕は成徳さんから離れません。ずっと」  ずーっとって言おうと思ったけれど。  言えなかった。 「ン……」  深くて濃厚で蕩けてしまう甘い甘いキスで唇が塞がれてしまって、絡まり合う舌同士に言葉も蕩けて、言えなかった。

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