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第3話 初夜
コウイチのオフィスを出て、会社の前でタクシーを捕まえ自宅へと戻り、ルイは荷物をまとめて実家へと送る。
ほとんどの時間を、コウイチの側で過ごしていたせいで、自分の部屋には驚くほど荷物が少なかった。
<私はいったい… 何をしてしまったのだろう? ずっと、コウイチさんのためを思い、受け入れずにいた… 彼に抱かれながら、何度も叫んでしまいそうだった愛の言葉を、血を吐くような思いで、押さえて来たのに…?!>
『お前に縁談を用意したから、必ず結婚しろ!』
「アナタがそれを望むなら… コウイチさんの命令に従います」
実家に帰り、本家で務めるようになると…
コウイチが用意したベータの女性と、ルイは命令通り結婚した。
派手な結婚式や披露宴は行わなかったが、相手の女性からは何の文句も出ず、ルイはホッ… と胸を撫で下ろす。
<聞き分けの良い女性で良かった… さすが、コウイチさんが選んだ女性だ…>
その夜、ルイは新居のベッドで初夜を迎えた。
妻を抱こうとするが、どういうワケかルイの身体は、妻に欲望を持てず…
ソレどころか嫌悪まで感じてしまい、ルイは焦燥感 にかられた。
<私は今まで、コウイチさん以外と、寝たコトがないからかも知れない…>
初めてルイが性体験をした時、相手はコウイチだった。
初めてのキスも… 初めての恋も… ルイの相手はコウイチ以外に考えられなくて…
それ以来コウイチに求められるまま、ルイは身体を捧げ続けた。
<たぶん… 私の身体は、男相手にしか反応しないのだ、困ったなぁ…>
今までコウイチに抱かれる時以外に、自分の性癖を意識したコトなど無かったルイは途方に暮れる。
『ルイ、ベータの女を抱いて子供を作れ!』
<コウイチさんの命令に従わなければ! 従わなければ! 従わなければ!!>
命令に服従するコトでしか、自分の愛情をコウイチに返せないルイは、必死で自分に言い聞かせた。
ベッドに坐る妻の手に触れた瞬間、ルイはうっかりコウイチとの記憶を思い出し、固まってしまう。
<私を抱く時、コウイチさんの身体は情熱と興奮に満ちていて、私が服を脱いで見せたダケで硬く逞しいコウイチさんのペニスが欲望で濡れているのが目に入り、恥かしいと思うのに… 嬉しくて、私のペニスも…>
コウイチとの思い出に没頭し、急に動きを止めたルイの頬に妻が触れ、唇にキスをした。
どこか中途半端で生暖かく感じる、男性よりも低い女性の体温を、唇から感じた途端…
生理的な気持ち悪さを感じ、ルイの腕に鳥肌が立つ。
<軽くキスされたダケで、こんなにゾッとするのに… そんな相手に自分の性器を挿入するのかと思うと…>
妻が悪いのでは無いと分かっているが、嫌悪感が膨れ上がって…
嫌で嫌で、ついにルイは我慢できなくなり、妻から慌てて離れた。
<これではまるで、愛するアルファと番の契りを結んだオメガみたいだ… 私はベータなのに! コウイチさんの妻にも、番にもなれない、ただのベータなのに! 彼以外の誰かを受け入れるコトが出来ないなんて!!>
ルイにとって、ベータの女性と子供を作るコトなど…
人工授精でもしないかぎり、不可能なのだとようやく理解する。
<こんなにも、愛していない相手を抱くのが辛いなんて!! 私はこんなに辛いコトを、コウイチさんに強いていたのか?!>
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