4 / 73

第4話

風呂に入っている間、如月は冷静に考えていた。 (まあ、仕方ないですかね)  真島は元々、女性が好きだった。いみじくも自分が今日蓮見に告げたように、『世の一般男性』としてプライドを満たしたかったのだろう。たまたま蓮見という存在と知り合ったことで、恋愛対象が男性にまで広がっただけに違いない。とはいえ、女性に戻ってもらっては困る。如月に、真島を手放すつもりは無かった。 (がっちり、捕獲するとして……)  そんなことを考えながら浴室を出ると、真島が何やら箱を抱えてやって来た。 「さっき、宅配便が届きました。修一さん風呂だったし、勝手に受け取っちゃいましたけど」 「いいよ、ありがとう。何だろうな?」  差出人を見て、如月はおやと思った。蓮見からだったのだ。開けてみると、出て来たのは日本酒の瓶だった。 「○吟醸!」  如月は、思わず呟いていた。真島がのぞき込む。 「何か、高そうですね?」 「さすが、社長だ。僕の好みをよくご存じでいらっしゃる」  酒には、メッセ―ジカードが添えられていた。 『如月君、誕生日おめでとう。一日早いが、祝わせて欲しい。僕が今日まで来れたのは、君のサポートあってこそ。心から、感謝している。公私共に、良い一年となりますように』  感謝されるというのは、嬉しいものだ。がぜん、やる気も出て来る。蓮見はこうやって人の心をつかむのが上手いと、如月は実感した。自分も、見習わねばと思う。 (ああ、そういえば)  如月は、ふと思い出した。この酒にぴったりのセットを、今日もらったではないか。あれはチョコ袋とは別にして、鞄に入れていた。 「蒼君、飲もうか」  すっかり機嫌が良くなった如月は、鞄から猪口とイクラのセットを出して来た。真島が、目を見張る。 「それ、もらったんですか?」 「うん。この酒にちょうど合うな」 「……すご。これまた、高価そうなんですけど」  真島は日本酒が得意でないので、彼にはビールを出してやる。もらった猪口に○吟醸を注いで、イクラをつまみに飲もうとしたが、なぜか真島は手を付けようとしなかった。 「食べないの?」 「それは、修一さんがもらったものですし……。どうぞ、食べてください」 「遠慮しなくてもいいのに」  どっちみち、一人で食べるには多すぎるのだ。だが真島は、やけに頑固だった。 「もしかして、苦手なの、イクラ?」  魚介類は嫌いではなかったはずだが、と如月は首をひねった。 「だったら、他におつまみを出してあげよう。肉系がいいのかな?」  如月は冷蔵庫を開けたが、あいにく適当なものは見つからなかった。 「焼き鳥の缶詰くらいしか無いけど……、それでいい?」  言いながら如月は、食器棚を開けようとした。下段に、保存の利くものをしまっているのだ。だがそのとたん、真島が飛んで来た。食器棚の前に、立ち塞がる。 「あのっ。俺のつまみは、お気遣いなく」  どうした、と如月は眉をひそめた。真島の焦りようは、尋常ではない。 「何。そこ、見られたらまずいものでもあるの?」  一体何を隠した、と如月は目をつり上げた。 「別に、何も!?」 「だったら、開けても構わないよね?」 「ダメです!」  何が何でも、食器棚を死守しようとする真島。さてどうしようか、と如月は考えを巡らせた。力ずくでどかせることも、できなくはない。だが、それは本意では無かった。自ら開けるように、仕向けたい。 「ねえ、蒼君。今夜泊まる予定ということは、着替えは持参しているんだよね?」  腕を組んでにこやかに尋ねると、真島は露骨に警戒の色を浮かべた。 「……ええ」 「そう。君の言動次第では、明日の朝起きたら、下着が消えているかもね」  すうっと、真島が青ざめる。如月ならやりかねないと、思っているのだろう。 「ああ、ちなみに、明日の朝は車で会社まで送ってあげるつもりだから。コンビニへ寄る暇は無いよ?」 「……」 「ノーパンで出社したくなかったら、そこを開けることだね?」  如月は、にっこりと笑ってみせた。

ともだちにシェアしよう!