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第5話

 真島が、観念したように食器棚の扉を開ける。彼が、恥ずかしそうに取り出したのは……。 「さきいか?」  如月は、拍子抜けするのを感じていた。真島が、ぼそぼそと答える。 「一応、バレンタインのプレゼントです。修一さんは甘い物嫌いだし、日本酒のつまみになるものの方がいいだろうなって……」 「だったら、どうして隠すの」  如月は、首をひねった。だって、と真島がうつむく。 「あんな高価な酒とおつまみの後で、こんな安い物出せないじゃないですか! ……それに、何ですか、あの猪口とイクラのセット。修一さんの好みを知り尽くしてるって感じで。きっと、修一さんのこと大好きな女性からですよね!?」  如月は、思わず笑みが広がるのを感じていた。 (そんな可愛いことを考えて、すねていたんですか……) 「何です!? 図星ですか?」  真島が、血相を変える。如月は、少し間を置いてから答えた。 「確かに、僕の好みをよく知る人からの贈り物ではあるね」 「嘘……、マジで……?」 「秘書室の皆からだよ」  如月は、あっさり答えた。 「だから僕の好みもよく知っているし、費用も分担しているから、そりゃ高価な贈り物もできるよ」  ずる、と真島が倒れ込みそうになる。如月は、そんな彼の腕を取った。 「値段のことなんか、気にしないで。さきいかは大好物だし、そもそも蒼君のくれる物なら、何でも嬉しい」  ほら食べよう、と如月は彼を食卓へ誘った。椅子に腰かけた真島は、まだ放心状態だ。 「あ~、よかった……。いや、これだけ鞄に大事そうに入れてるから、余計気になっちゃって。どうせここには無いだけで、修一さん、山ほどチョコもらったんでしょ?」  バレていたか、と如月は肩をすくめた。 「まあね。チョコレートとそれ以外で、何となく分けただけだけど」  如月は皿を出してくると、さきいかを盛った。 「バレンタインプレゼント、ありがとう。実は、僕も用意していたんだよね」  如月は冷蔵庫へ向かうと、奥の奥から小箱を取り出した。入浴前の真島の発言に苛立ったせいで、すぐには出す気になれなかったものだ。 「はい、どうぞ」  ラッピングを見たとたん、真島の顔はパッと輝いた。 「○ディバ! めっちゃ嬉しい。俺、大好物なんですよね!」 「そりゃよかった。遠慮無く食べて。……まあ、ビールには合わないけど」  自分はさきいかをつまみながら、○吟醸をあおる。いえ、と真島はかぶりを振った。 「早速、いただきます。う~、もうずっとこれ、食べたくて。いや、自分用に買おうと思って、特設会場へ行ってみたんですけどね。女性だらけで、恥ずかしくなって、結局買えませんでした。だから、バレンタイン当日に誰かがくれないかなって、期待してたんですけど」  おや、と如月は思った。まさか……。 「ずっとチョコチョコと騒いでいたのは、女性にもてたいわけではなかったの?」 「ハイ」  真島は、あっさり答えた。 「純粋に、食べたかったんです」

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