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第6話

 如月は、拍子抜けする思いだった。 (何だ。それだけのことだったんですか……) 「あっ、でもこれ、バレンタイン売り場で買ってくれたんですよね? すみません、恥ずかしい思いをさせちゃって」  ふと気付いたように、真島が言う。いいよ、と如月は答えた。 「蒼君が喜んでくれるだろうなあって、そればかり考えていたから。周囲の目なんて、気にならない」  真島が、パッと顔を赤くする。彼はいつの間にやら、チョコを完食していた。 「甘い物好きなのは知っていたけれど、そこまでとは思わなかった。もっとたくさん買えばよかったな」 「いえいえ! これで十分です」  真島はかぶりを振っているが、明らかに食べ足りなさそうだ。どうしようか、と如月は思案した。 「バレンタインが終わったら、特設会場も撤収されるだろうしね……」  そこで如月は、真島をチラと見た。 「ねえ、蒼君。もしよかったら、何だけど。僕がもらったチョコ、食べる?」  中には、女性が心を込めて贈ってくれたチョコもあるだろう。それを恋人にあげるというのは気が咎めたし、真島にも失礼な話だと思う。だが自分は絶対に食べないし、廃棄するのももったいない。  「失礼なのは、承知の上だけど……」 「いえ、いただきますよ?」  真島は、大きく頷いた。 「俺、そういうの全然気にしませんから! 修一さんがどれだけチョコをもらおうが、心が動くことなんて無いって信じてますし」  イクラであれだけすねたのはどこの誰だ、と言いたくなったが、それを口に出すのは止めた。 「信用してくれて、ありがとう。じゃあ、今から取って来る」  席を立てば、真島はおやという顔をした。 「取って来るって、どこからです?」 「駐車場。車に積んであるから」  すると真島は、ぶんぶんと首を振った。 「ダメですよ。駐車場なんて、めちゃくちゃ寒いじゃないですか。せっかくお風呂で温まったのに、湯冷めしちゃいますよ」 「平気だから」 「でも……」  如月は、真島の耳元に唇を寄せた。 「もし冷えたら、君が温めてくれるだろう?」  真島が、耳まで赤くなる。そんな彼の唇に軽くキスすると、如月は部屋を出たのだった。今日で一番、軽い足取りで。  なおその週末、真島が誕生日プレゼントとして持参したのは猪口セットであり、やっぱり根に持っているじゃないかと思った如月であった。 <おまけ:後日談>  蓮見は役員会議で、『来年より、役員が受け取ったチョコは貧困地域に寄付してはどうか』と提案し、猛反発をくらうことになるのだった。 「我々の最後の望みを、奪わないでください!」 「薄くなった頭から、さらに毛をむしるおつもりですか!」  こうして蓮見は、ほうほうの体で提案を撤回した。彼の有能な秘書が、来年以降もチョコの仕分けに追われる羽目になることが確定した瞬間だった。 バレンタイン・了

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