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台風襲来 第1話

(牽制、オア、誤魔化す?)  そんな二つのフレーズが、脳内で飛び交う。真島蒼は今、究極の選択に迫られていた。    真島が現在佇んでいるのは、恋人・如月修一が住むマンションの玄関である。二人は同じ保険会社に勤務しており、如月は社長秘書として多忙な日々を送っている。本日も休日出勤だと出かけてしまい、真島はそんな彼の部屋を、最近もらったばかりの合鍵で意気揚々と訪れたのだった。美味しい食事を作って、彼の帰宅を待つつもりである。 (ロクに食ってなさそうだもんなあ、あの人)  如月は、決して料理が苦手なわけではない。むしろかなりの腕前で、蓮見がNYへ行っている間は、三枝に手作り惣菜を差し入れたこともあるのだとか(ちなみにそれを聞いた後、真島は三枝のデスクにあったコーヒーを、激苦ブラックにすり替えた)。  要は、如月は食にこだわりが無いだけなのだ。ワーカホリック、とでも言うべきか。 (ここは、俺が栄養のあるもんを作って食べさせてあげないと)  完全に妻思考になっていることに気付かないまま、真島は料理に取りかかった。ところがそこで、みりんが無いことに気付いた。 (コンビニ行って来るか)  そう考えて、バッと玄関の扉を開いたその前には……、見知らぬ若い女性が、呆然と突っ立っていたのだ。しかも、かなり可愛い。  

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