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第2話

「えっ、と……」  女性は、パッチリとした瞳で、まじまじと真島を見つめている。小麦色の肌をした、健康そうな女性だ。年齢は二十代半ば、といったところか。遙か昔、女性を取っ替え引っ替えしていた頃の真島であれば、食指を動かしていたことだろう。だが今は、それどころではなかった。何せ彼女は、明らかに如月の部屋を訪ねてきたのだから。  真島は、忙しく頭を巡らせた。合鍵を見せびらかして、牽制しまくりたいのはやまやまだ。蓮見のような派手さは無いものの、如月のモテっぷりも相当なものだ。クールで落ち着いている上、ミステリアスな雰囲気がたまらないらしい。アタックしに来たのであれば、二度と立ち直れなくなるような暴言を投げつけて、追い返さなければ。 (でも、仕事関係の女性だったら)  真島の頭には、そんな不安もかすめた。万一、ということもあり得る。如月は、相手が真島だということはもちろん、同性と付き合っていることも、会社では内緒にしているのだ。勝手に暴露したら、如月にどれほど迷惑をかけることか。となると、ここは友人のフリで誤魔化すべきか。 (腹をくくれ。俺は、優秀な営業マンだろ!?)  真島が苦渋の決断をしたその時、女性は合点したように頷いた。 「あー、わかった。あなた、お兄ちゃんの今カレでしょ?」 「お兄ちゃん!?」  真島は、目を剥いた。切れ長の瞳にほっそりした輪郭を持つ、どちらかといえば色白の如月の顔が思い浮かぶ。全然似ていないが、この女性は如月の妹なのか。 (暴言を投げつけなくてよかったあああ……!) それは、真島が今世紀最大にほっとした瞬間だった。

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