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第3話
いや待てよ、と真島はハッとした。
(今、今カレって言った?)
ということは、如月は家族に、自分のことを話していたのか。臨機応変に振る舞えるのは自分の特技だと自負していたが、意外な事実の連続に、さすがに付いて行けない。
その時、不機嫌な声が響いた。
「治美 。来る時は前もって連絡しろと言っていただろう」
声と同じくらい不機嫌な表情で、女性の背後にスッと現れたのは、如月だった。立ち尽くす真島を見て、おやという顔をする。
「来ていたの?」
「はい。コンビニへ出かけようとしたら、ちょうど彼女が来られて」
如月は、合点したように頷いた。
「蒼君。妹の治美だ。たまにこうしてアポ無しで突撃して来る、台風みたいな奴なんだ。驚かせて悪かったね」
「ごめんごめん! でも、悪い話じゃないから。結婚祝いのお返しを持って来たんだよう」
治美は、如月に何やら紙袋を押し付けた。あっけらかんとした様子に、真島はほっとするのを感じた。だがそれは、束の間だった。治美は、しげしげと真島を見つめると、如月にこう告げたのだ。
「この人、今カレでしょ? よかったじゃん。浅野 さんと別れてから、お兄ちゃんフリーが長かったから、心配してたんだよう。ずっと引きずってるのかって……」
ピクン、と頬が引き攣るのがわかった。ちなみに浅野というのは、如月の前の彼氏だ。大学時代から、数年間付き合っていたという。それを知った時は、案外ほっとした。如月の恋愛対象が男だと、確信できたからだ。何だかんだ、如月に近付く女性には目を光らせてしまう真島だが、根っこではどこか安心していた。とはいえ、名前を出されると、やはり心穏やかでない。
「治美……」
如月は、すうっと能面のような表情になった。治美が、ハッと口を押さえる。
「やばい。私、余計なこと言っちゃった?」
「まったくだ」
地を這うような低い声で、如月が言う。彼は、治美をじろりとにらみつけた。
「とにかく、入りなさい。お前には、いろいろと言い聞かせることがある」
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