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第9話

 緊張させないためか、あえて軽い口調で言っているのがわかる。真島は、おそるおそる小箱を手にした。そっと蓋を開ける。中には、シンプルなストレートラインのリングが収められていた。小さなダイヤが、控えめに光っている。 「蒼君の好みとしては、もう少し華やかめの方がいいんだろうとは思ったけれど。でも、年を取っても着けることを考えると、このくらいの方がいいかと思ってね」 (本当に、本気なんだ)  『一生を共にしたい』と家族に告げたと聞いた時は、まだ信じられなかったのだが。あえて真島の好みから外したこの控えめなデザインが、如月の想いを証明している気がした。 「ありがとう、ございます。すごく、嬉しい……」  気の利いた言葉が出て来ればいいのに、頭が熱病にでも冒されているようで、上手い表現が見つからない。如月は、そんな真島に寄り添うと、ゆったりと髪を撫でてくれた。 「はめてみていいですか?」 「もちろん」  そっと箱から取り出し、左手の薬指にはめてみる。案の定、あつらえたようにぴったりだった。どうしてサイズを知ったのかという疑問も浮かぶが、口にはしなかった。如月が何事にも用意周到なのは、今に始まった話ではない。 「ぴったりだ……。デザインも、すごく気に入りました」  顔をほころばせれば、如月は満足そうに頷いた。 「よかった」 「もちろん、修一さんの分もあるんですよね?」 「うん。着けてみせようか?」  如月は、再びクローゼットに向かうと、同じ小箱を出してきた。恐らくは、如月の方が指が細いのだろう。やや小さめの、だが全く同じデザインの指輪が収められている。それを取り出して身に着ける如月を、真島はまじまじと眺めていた。 「すごく似合ってます」  二歳年上で雰囲気も大人びた如月の方が、自分より似合う気はするけれど。どちらにせよ、ペアリングは真島にとって嬉しすぎる贈り物だった。 (そういや三枝の奴は、蓮見さんに指輪をもらってないんだよな……)  真島は、ふと思い出した。誤魔化しがきくようにと、指輪ではなくペアウォッチを贈られた、と聞いた。 (ふっふっふ。勝ったぜ、三枝……!)

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