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第11話
「……すみません。そこまで、考えが及ばなくて」
真島は、思わず謝罪していた。いいよ、と如月がかぶりを振る。
「仕事が増えるというのは、半分冗談だ。僕はただ、君にわかって欲しかったんだ。幸福は、他人と比べるものではないと」
ドキリとした。如月が、静かに続ける。
「蒼君。君は、とても勝ち気な性格だ。営業という職種においては、それはいいことだと思う。でもプライベートにおいては、競争意識が必ずしも良い方に作用するとは限らない。僕は、それを言いたかった」
「はい。ごめんなさい」
真島は、神妙に頭を垂れた。
「その通りですよね。修一さんにこんなに愛されてるのに、三枝に対抗するようなことを考えちゃって。俺は、馬鹿です」
「いや。何だか説教臭くなって悪かったね。たった二歳しか違わないのに、人生の先輩ぶるような発言をするのも、どうかとも思ったんだけど」
如月は、珍しく照れくさそうな顔をした。
「それに。本当に満たされていたら、他人と比較しようなんて思わないはずだから。その辺りは、僕の愛の伝え方がまだ足りなかったかな、とも」
「満たされてますよ、とっても」
真島は、小さく囁いた。如月が、ふふっと笑う。
「そう? でも念のために、もう少し愛を伝えておこうかな」
言葉と同時に、ぐいと引き寄せられる。真島は、反射的に瞳を閉じていた。啄むように口づけられ、やがてベッドに押し倒される。
(えっと……。直接的な方法で、ってこと?)
でも、それも悪くないかな、などと思う自分がいた。というより、むしろ期待しているという方が正しくて。
左手を如月の方へ伸ばせば、そっとその手を取られた。シーツにやわらかく縫い止められる。……如月の左手で。
金属と金属が触れ合う音が、寝室に優しく響いた。
了
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