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第2話
<Side真島&翔馬>
「昼飯、どっか外へ食いに行く?」
その日の昼休み、真島蒼は、三枝翔馬に声をかけた。だが、返って来たのは力無い返事だった。
「いや……、今日、外出はしたくない」
その後で三枝は、声を潜めると、「腰が辛い」と続けた。
(またやらかしたな、こいつ)
どうせ間抜けな真似をして、蓮見の逆鱗に触れたに違いない。真島は、はああとため息をついた。
「じゃあ、コンビニで何か買って来てやるよ。で、ミーティングルームで一緒に食おう? 話、聞いてやる」
二人きりになって聞いた話は、案の定と言うべきものだった。女性社員にゴルフを教えてくれと頼まれ、つい二人で出かける約束をしてしまったのだとか。
「てかお前、ゴルフできたの?」
持ち前の負けず嫌いが頭をもたげ、真島はそちらに関心を持ってしまった。いや、と三枝がかぶりを振る。
「大学の時に、ちょこっとやっただけ。できるとは、とても言えない」
「だったら、なおさら断れよ。蓮見さんに知られたら怒られるって、わかってんだろ? 間抜けだなあ」
つい、大声になってしまう。でも、と三枝はぶつぶつ言った。
「本当に困ってるみたいだったから、少しでも助けになればと……」
「口実に決まってるだろ。大体うちの会社、接待ゴルフなんかしねーじゃん」
三枝のお人好しっぷりに、真島は苛つき始めた。
「ちなみに誰よ、その女って?」
「小野さん」
ああ、と真島は合点した。二人が所属する営業部の、新入社員だ。かなりの遊び人らしく、いろいろな男性社員にモーションをかけているとか。
「げっ。そういえば思い出した。小野、俺のことも誘ってきたわ」
すると三枝は、目を見張った。
「真島のことも!?」
「何だよ、その驚き」
真島は、ムッとした。
「だって真島って、ゲイだと思われてるだろ? それなのに何でって思ったんだよ。あ、まだ噂が耳に入ってないのかな」
脳天気な言い草に、真島はますます苛立ってきた。
「ゲイでも落とす自信があんじゃね? てか、俺がゲイだって噂になったの、誰のせいだと思ってんだよ。お前が、蓮見さんの写真をぼーっと持ち歩くからだろ」
その写真を前の部長に見られたことで、三枝と蓮見は噂になりかけたのだ。それを擁護したことがきっかけで、真島は完全にゲイ認定されているのである。だが三枝は、目をつり上げた。
「元々の持ち主は、真島だろ! お前が不用意に落としたのが発端じゃんか」
「う……、確かにな」
三枝は、真島が落とした蓮見の写真を所持していただけなのだ。責任のなすりつけは止そう、と真島は決意した。
「ま、まあ、大昔のことは忘れよう。それよりも……、俺には、一週間前のことの方が重要だ」
真島は、頭を抱えた。
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