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第3話
一週間前、如月の留守中に彼の部屋を訪れた真島は、キッチンで料理をしていた。その際、小野から電話がかかって来たのだ。ちょうどオーブンで焼き物をしている間、暇だったこともあり、真島は適当に彼女の相手をしていた。
『飲みに連れて行ってください~』
甘えた調子で言われて、真島はつい、昔の悪癖が出てしまったのだ。
『OK。いい店知ってるから、今度行こうぜ』
「と、答えたその時だよ」
真島は、ずいとテーブルに身を乗り出した。
「いつの間にか、修一さんが帰って来てたってわけ!」
「真島も十分間抜けじゃない?」
三枝が、呆れた顔をする。うるさい、と真島は顔をしかめた。
「ノリだよ、ノリ! 本気じゃなかったし」
「で、如月さんのリアクションは?」
「にっこり笑って、『楽しそうだね』って。もうホラーでしかなかった」
だが三枝は、怪訝そうな顔をした。
「そのどこがホラー?」
「わかんねえ? 修一さんは、蓮見さんみたいにわかりやすく怒らないんだよ。まあ大体は、能面みたいな表情になるかな。で、マジギレした時は、ああやって笑う。……あー、恐ろしい……」
しかし三枝は、まだ腑に落ちなさそうな様子だった。
「今ひとつ、わかんないんだけど。如月さんの笑顔って、優しいじゃん」
「お前、やっぱり馬鹿?」
真島は、舌打ちした。
「修一さんにとってお前は、大事なボスの大事な恋人なんだから。そりゃ、愛想良くもするだろ。俺に怒ってる時の笑顔は、目が笑ってねえの。周囲の空気も、サーッと温度が下がる感じで」
本当である。ここは北極か、そう言いたくなるくらいだ。
「あ、そろそろ休み終わる」
三枝は、時計を見上げると、よろよろと立ち上がった。
「まー、お互い言動には気を付けよう? 俺もさあ、今回悠人さんに十分お仕置きはされたけど、何か嫌な予感がするんだよね。まだ何か企んでそうっていうか」
「そんだけ腰痛になるくらいヤられたんだろ? 蓮見さんは切り替えが早いし、もう終わりだろ、さすがに」
三枝を元気づけながら、真島自身も楽観的な気分になっていた。あれから一週間経つが、如月の態度はいたって普通だからだ。
(ノリだってわかってくれたよな、きっと)
そう自分に言い聞かせて、真島は頷いた。だが、ほっとするのは早かった。まったくもって、早すぎた。
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