25 / 73

第7話

「はああ。悠人さん、あの男の子に興味持ったのかなあ……」  三枝が、ぐじぐじと呟く。真島と三枝は今、同じホテル内のロビーにいるのだ。会場からは追い払われたとはいえ、二人ともあんな場面を見て、すごすご帰る気にはなれなかった。イベント終了まで、ここで張り込むつもりである。 「すごく、愛想良くしてた。あの子、可愛いし、何より若かったなあ。俺なんか、もうすぐ三十だもん。やっぱり、若い男の子の方がいいのかなあ、悠人さん。考えてみれば、俺と付き合い始めたのも、俺が新入社員の頃だったし……」 「若けりゃいいってもんでも無いだろ」  真島は言った。慰め半分、愚痴を打ち切る目的半分である。  「それもそうか。現に真島は、同時期にふられたわけだもんね」 「お前なっ」  真島は、三枝をにらみつけた。ただでさえ気分がささくれ立っているというのに、嫌なことを思い出させないで欲しい。 「……ごめん!」  三枝が慌てたように謝ったが、真島はそれどころではなかった。最後に見たショートヘアの美人が、気にかかって仕方なかったのだ。 (一瞬だったけど。賢そうな人だった……)  真島は、深いため息をついた。ここまで落ち込むのは、その女性が、如月の元カノによく似たタイプだからだ。会ったことはないが、如月の妹から聞いたことがある。  その妹・治美から、如月には女性とも付き合った過去があると聞いた真島は、その後気になって、詳細を尋ねたのである。それによると元カノは、美人で頭も良かったらしい。性格はサバサバ系で、雰囲気もそれらしくショートヘアだったとか。 (いや、修一さんに限って、とは思うけど……)  その時、大勢の人々がロビーへ降りて来た。どうやら、イベントが終了したらしい。皆ほろ酔い加減で、機嫌良く談笑している。  真島と三枝は、反射的に身を縮めていた。そうしつつも、出て来る人々を観察する。それぞれの恋人が、無事に帰路に就くのを確認するためだ。 「……あ」  ふと、三枝が小さく声を漏らした。蓮見が降りて来たのだ。如月と一緒ではなかった。一人でもない。先ほどの、若い男性を従えている。二人はそのまま、ホテル内のカフェへと入って行った。 「何で……!?」  三枝は、青ざめている。真島は、その肩をポンポンと叩いた。 「落ち着けって。カフェに入っただけだろ? ただ話すだけだって」  そう言いつつも、真島自身も気が気ではなかった。蓮見と一緒でないということは、如月は一人ということか。……いや、一人であって欲しい、切に。 その時だった。真島は、目を疑った。如月が、例のショートヘアの美人と連れ立ってやって来たのだ。如月は素面同然だが、女性の方はかなり酔っているらしく、彼の腕につかまるようにして歩いている。 (いや、俺も落ち着け。修一さんのことだ。介抱は、ホテルのスタッフの人に任せるつもりに決まってる……)  だが、真島の淡い期待は無残にも打ち砕かれた。如月は女性を連れて、そのままホテルを出て行ってしまったのだ。真島は、瞬間的に立ち上がっていた。 「三枝、お前はここで蓮見さんを張れ。俺は、二人を追っかけてくる!」  三枝の返事を待たずに、真島はホテルのエントランスへと走ったのだった。

ともだちにシェアしよう!