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第9話
如月と女性が、タクシーから降りる。真島は、瞬時にわめいていた。
「止めてください!」
メーターを見ると、千七百七十円とある。真島は運転手に、千円札を二枚押し付けた。
「ありがとうございました。おつりは、結構ですから!」
運転手は何事か呼びかけていたが、真島はそれを無視して車を飛び出した。もう、尾行していたと知られたって構わない。前方の二人に向かって、あらん限りの声で叫ぶ。
「修一さん!」
ぽろっと、涙がこぼれ落ちた。
(みっともない。みっともなさすぎる……)
如月が、ゆっくりこちらを振り返る。真島は涙を拭うと、つかつかと二人に近付いた。
「何で……」
声がかすれるのがわかった。二台のタクシーは、さっさと走り去って行く。それを見届けると、如月はふとため息をついた。
「これで、僕の気持ちがわかった?」
「――は?」
一瞬、意味が理解できない。すると如月は、連れの女性に呼びかけた。
「山本さん、もういいよ。酔ったフリは終わり」
そのとたん、女性はパッと顔を上げた。真島は、きょとんとした。
(酔ったフリって……?)
女性は、完全に素面といった様子で、けろりとしている。如月は苦笑した。
「相変わらず、酒豪だよね、君は」
「如月先輩ほどじゃないですよ」
え、と真島は思った。
「先輩?」
まったく、状況が把握できない。すると如月は、女性のことを指した。
「彼女は山本さんといって、僕の大学時代の後輩なんだ。今回、一芝居打ってもらったってわけ」
「芝居!?」
真島は、目を見張った。そう、と如月が頷く。
「君と三枝君が、性懲りも無く女性にフラフラするから。同じ目に遭ったら少しは反省するかと、社長と組んでこういう計画を立てたというわけだ。蒼君、君、探偵の才能は無いね。尾行、下手すぎ」
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