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第11話

 部屋に入ると、如月は風呂に湯を張ってくれた。やや窮屈だったが、二人して浸かる。体が温まってくるうちに、真島も次第に冷静さを取り戻していた。それを見越したかのように、如月は口火を切った。 「本気で思った? 僕が浮気するって」 「ずっと信じてましたけど。でも、彼女と二人でタクシーに乗った辺りから、やっぱり不安になってきて……。あの、俺が尾行してるって気付いてたんですね」  もちろん、と如月は頷いた。 「それどころか、イベント会場をのぞいていたのも、ロビーで張り込んでいたのも」  全部お見通しだったとは。真島は、真っ赤になった。 「会場をのぞいていた時は、ハラハラしたよ。不審者として通報されやしないかってね。君、すごい目つきだったし」 「そりゃあ……、女性に囲まれてたじゃないですか」  真島は、ぼそりと言った。 「飲食の際に長い髪を垂らしたままの女性なんて、絶対にごめんだね。自分の髪が入ったような皿を勧めるな、と内心腹を立てていたよ」  じゃあショートヘアの女性ならOKなのか、と突っ込みたくなったが、止めることにした。如月の愛情を疑うような台詞は、今口にすべきでは無い気がした。 「俺、反省しました」  真島は、ぽつりと言った。 「最初は、騙したのかよってめちゃくちゃ怒りましたけど。でも、ここまで手の込んだことを仕掛けさせるくらい、俺は修一さんを腹立たせてたんですよね」 「まあねえ……」  如月が、長いため息をつく。 「君は職種柄、社交辞令を口にするのは仕方ないと思ってる。だから取引先相手なら、僕もいちいち目くじらは立てない。けれど、今回は社内の女性だろう?」 「……」 「あまり軽々しく誘いに乗るのは、君自身の評判も傷つけるよ? 僕が不愉快というだけでなく、君にはそういう自覚も持って欲しかった」  諭すように言われ、真島は頷くしかなかった。 「ああ、また説教臭いことを言ってしまったな。じゃあ、これにてお仕置きは終了」  如月はクスッと笑うと、真島を改めて見つめた。 「ところで。コンタクトレンズというのも、なかなか良いものだね。君の体が、隅々まで見える」  ぎゃっと、真島は声を上げていた。そういえば、今日の如月はそうだった。

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