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知らなかったんだもん 第1話

 真島蒼は、悩んでいた。 (旅行、楽しみは楽しみなんだけど……)  真島と如月は、来月一緒に旅行することになった。それは大変嬉しいことなのだが、問題は、如月が二人分の料金をさらっと払ってしまったことである。真島は自分の分を出すと言い張ったが、如月は断固拒否した。それで真島としては、少々気が引けているわけである。  確かに、年齢やポジションは如月の方が上だ。とはいっても、何でもかんでも甘えるのは申し訳ない。となると、他の方法でお返しをするべきか。 (……つまり、アッチの方でサービスするべき……?)  結局至った結論は、それであった。とはいえ、どうすべきかさっぱり思いつかない。そもそも、如月の方は過去に男性と経験があるが、真島には無い。そんなわけで、これまでベッドの中では、ずっとリードされっぱなしだったのだが。 (ヤバい。ひょっとして、マグロ男と思われてたかもっ)  今さらながら気付いて、真島は焦った。元彼と比べてつまらないと思われたくないという競争心も湧き上がって、真島は必死にネットで情報収集した。だが、テクニック的なことについては、今ひとつ有益な情報が得られない。ゲイ用語や出会いの場所についてなら、わんさか出て来るのだが。 (へえ。攻と受のことを、タチとかネコとか言うのか)  納得はしたものの、これでは解決にならない。そこで真島は、ふと思いついた。ネコの大先輩が、身近にいるではないか。三枝と蓮見の交際歴は、自分たちよりずっと長い。 (いや、しかしあいつに聞くのはプライドが……)  しばし悶々とした挙げ句、真島はついに決意した。 (修一さんを喜ばせるためだ。この際、プライドは捨てるぞ!)  だが真島は知らなかった。三枝翔馬という男は、信じられないくらいゲイ用語に疎かったのだ。

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