39 / 73
そこが可愛い 第1話
<Side真島>
その休日、真島蒼が書店で本を選んでいると、背後から聞き覚えのある声がした。
「真島君じゃないか」
振り返って、真島はドキリとした。そこには、社長・蓮見が立っていたのだ。休日だからか、ラフなジャケットにスラックス姿だ。
「お疲れ様です!」
「そんなにかしこまらなくていいよ。僕もプライベートだから。休日はいつも、読書をして過ごすんだ」
確かに蓮見は、数冊の本を抱えていた。ビジネス本だけでなく、歴史小説やIT関係、法律の専門書など、ジャンルは多岐に渡っている。
「様々な方面の知識を身に付けるというのは、重要なことだからね」
真島の視線を感じたのか、蓮見はそんな風に説明した。
「すごいですね……。でも、お忙しいのに、わざわざご自分で選びに来られるんですか」
てっきり、秘書に命じてネット注文させるものかと思っていた。
「激務の時は、別だけれどね。実際手に取って中を見ないと、本というものはわからないから。予定していなかった、未知の書物との出会いもあるしね」
さらりと説明した後、蓮見は、真島の立っていたコーナーを眺めた。
「何、君は将棋に関心があるの? 最近、ブームだものね」
「あ、違うんです。僕が探していたのは、囲碁の方で。取引先に、碁好きの方がいらっしゃいまして。少しでも共通点があれば、打ち解けられるかなって作戦です」
「なるほど。確かにいい方法だね。真島君は努力家だ」
蓮見は、感心したように頷いた。
「ありがとうございます。でも、囲碁って難しいですよね。ゲームでルールは覚えたんですけど、打つところまで行かなくて。それで、本で学ぼうかなと思ったわけです」
すると蓮見は、おやという顔をした。
「それなら、君の飼い主……いや、恋人に教わったら?」
「……どうしてです? 修一さん、碁を知ってるんですか?」
『飼い主』という表現に一瞬引っかかりを感じたものの、真島の疑問はそちらに向いた。
「何だ、知らなかったの?」
蓮見は、面食らった様子だった。
「如月君は、大学時代に囲碁部だったんだよ。かなり強くて、大学対抗の全国選手権では、準優勝だったとか」
ちなみに蓮見と如月は、同じ大学である。
「それは初耳でした。じゃあ、今度聞いてみますね」
ぺこりと頭を下げながら、真島はピンときていた。如月が、その話を自分に伏せていた理由を。
ともだちにシェアしよう!