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そこが可愛い 第1話

<Side真島>   その休日、真島蒼が書店で本を選んでいると、背後から聞き覚えのある声がした。 「真島君じゃないか」  振り返って、真島はドキリとした。そこには、社長・蓮見が立っていたのだ。休日だからか、ラフなジャケットにスラックス姿だ。 「お疲れ様です!」 「そんなにかしこまらなくていいよ。僕もプライベートだから。休日はいつも、読書をして過ごすんだ」  確かに蓮見は、数冊の本を抱えていた。ビジネス本だけでなく、歴史小説やIT関係、法律の専門書など、ジャンルは多岐に渡っている。 「様々な方面の知識を身に付けるというのは、重要なことだからね」  真島の視線を感じたのか、蓮見はそんな風に説明した。 「すごいですね……。でも、お忙しいのに、わざわざご自分で選びに来られるんですか」  てっきり、秘書に命じてネット注文させるものかと思っていた。 「激務の時は、別だけれどね。実際手に取って中を見ないと、本というものはわからないから。予定していなかった、未知の書物との出会いもあるしね」  さらりと説明した後、蓮見は、真島の立っていたコーナーを眺めた。 「何、君は将棋に関心があるの? 最近、ブームだものね」 「あ、違うんです。僕が探していたのは、囲碁の方で。取引先に、碁好きの方がいらっしゃいまして。少しでも共通点があれば、打ち解けられるかなって作戦です」 「なるほど。確かにいい方法だね。真島君は努力家だ」  蓮見は、感心したように頷いた。 「ありがとうございます。でも、囲碁って難しいですよね。ゲームでルールは覚えたんですけど、打つところまで行かなくて。それで、本で学ぼうかなと思ったわけです」  すると蓮見は、おやという顔をした。 「それなら、君の飼い主……いや、恋人に教わったら?」 「……どうしてです? 修一さん、碁を知ってるんですか?」  『飼い主』という表現に一瞬引っかかりを感じたものの、真島の疑問はそちらに向いた。 「何だ、知らなかったの?」  蓮見は、面食らった様子だった。 「如月君は、大学時代に囲碁部だったんだよ。かなり強くて、大学対抗の全国選手権では、準優勝だったとか」  ちなみに蓮見と如月は、同じ大学である。 「それは初耳でした。じゃあ、今度聞いてみますね」  ぺこりと頭を下げながら、真島はピンときていた。如月が、その話を自分に伏せていた理由を。

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