38 / 73
第3話
「どう、好みのチョコレートは見つかった?」
スイーツ山盛りのトレイを手に席へ戻ると、如月は微笑んだ。
「はい。もう目移りしちゃいましたよ」
そう言うと真島は、選んだ皿の一つを手に取った。
「これ、半分こしませんか?」
真島が選んだのは、クッキーだ。半分だけチョコがかかっている。真島は、それを二つにパキンと割ると、チョコが無い方を如月に差し出した。
「これなら、修一さんでもOKかなって。あ、クッキーも無理でした?」
如月は、一瞬目を見開いたものの、すぐにかぶりを振った。
「チョコレート以外なら、大丈夫だよ。適度な糖分も必要だしね。わざわざ、探してくれたの? ありがとう」
「せっかく一緒に来てるんだから、二人で楽しみたくて」
そう言うと如月は、ふふっと笑った。半分のクッキーを受け取り、口に運ぶ。
「うん、美味しいね」
「よかった……」
自分もチョコがけの方を口にしかけて、真島はハッと気が付いた。
「あ……。そういえば今日って、ビジネス目的を装うって言ってませんでした? すみません、すっかり忘れてて」
今のやり取りを不審に思われなかったかと、周囲の様子を窺う。幸いにも他の女性客らは、いかにチョコを堪能するかで頭がいっぱいのようで、こちらには注意を払っていなかった。
「別にいいよ。誰も、僕らのことは気にしていないようだし」
如月もそう言ったが、真島は不思議に思った。
「あの……。ここで、社長は会食されるんですか? お相手って、女性ばかりなんですか?」
それとも、よほどの甘党だろうか。だが如月は、それには答えようとしなかった。
「それは、秘書の守秘義務」
「いや、それはそうでしょうけど……」
「蒼君は、気にせずチョコに専念して」
それだけ告げると、如月は黙ってコーヒーをすすっている。もしや、と真島は思った。
「もしかしてこれ、ホワイトデーだからってことですか?」
今日は、三月十四日だ。
「でもそれなら、俺だってもらったのに。おまけに、修一さんが女たちからもらった分まで」
あの後真島は、二キロ増量した。現在は、こっそりジョギングに専念している。
「そうだっけ?」
如月は、首をかしげた。
「あいにく僕は、イベントには関心が無いからね」
そう言う彼の瞳には、悪戯っぽい微笑が宿っていて。けれど、そうだと確信できた。
(『ホワイトデー』と言うと、お互い交換したのにってなるから? だから、気を遣わせまいと思って……?)
イベントには、関心が無いくせに。ちゃんと覚えていたばかりか、こんな細かい演出まで。じわりと、胸が熱くなる。それを隠そうと、真島はパクパクとデザート類を口に運んだ。如月は、そんな真島を楽しげに眺めていたが、ふと声を落として
「上、部屋を取ってあるから」
と囁いたのだった。
ほわいとでー・了
<『知らなかったんだもん』をお読みいただいた方へ。おまけ>
真島「なあ~、三枝。ホワイトデーのお返しって、何がいいと思う? (結局、俺だけもらったことになるもんな。俺も何かしなくちゃ)」
三枝(ホワイトデーにお返し!? やっぱり真島って攻なんだな)
真島「あ、悪いな。何か、聞いてばっかりで」
三枝「いや、いいけど……(しかし攻の立場なら、何で悠人さんに聞かないんだろ? ま~、社長には聞きづらいか)じゃあ、俺からアドバイスとしては……」
誤解はまだまだ解けない模様。
ともだちにシェアしよう!