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第3話

「どう、好みのチョコレートは見つかった?」  スイーツ山盛りのトレイを手に席へ戻ると、如月は微笑んだ。 「はい。もう目移りしちゃいましたよ」  そう言うと真島は、選んだ皿の一つを手に取った。 「これ、半分こしませんか?」  真島が選んだのは、クッキーだ。半分だけチョコがかかっている。真島は、それを二つにパキンと割ると、チョコが無い方を如月に差し出した。 「これなら、修一さんでもOKかなって。あ、クッキーも無理でした?」  如月は、一瞬目を見開いたものの、すぐにかぶりを振った。 「チョコレート以外なら、大丈夫だよ。適度な糖分も必要だしね。わざわざ、探してくれたの? ありがとう」 「せっかく一緒に来てるんだから、二人で楽しみたくて」  そう言うと如月は、ふふっと笑った。半分のクッキーを受け取り、口に運ぶ。 「うん、美味しいね」 「よかった……」  自分もチョコがけの方を口にしかけて、真島はハッと気が付いた。 「あ……。そういえば今日って、ビジネス目的を装うって言ってませんでした? すみません、すっかり忘れてて」  今のやり取りを不審に思われなかったかと、周囲の様子を窺う。幸いにも他の女性客らは、いかにチョコを堪能するかで頭がいっぱいのようで、こちらには注意を払っていなかった。 「別にいいよ。誰も、僕らのことは気にしていないようだし」  如月もそう言ったが、真島は不思議に思った。 「あの……。ここで、社長は会食されるんですか? お相手って、女性ばかりなんですか?」  それとも、よほどの甘党だろうか。だが如月は、それには答えようとしなかった。 「それは、秘書の守秘義務」 「いや、それはそうでしょうけど……」 「蒼君は、気にせずチョコに専念して」  それだけ告げると、如月は黙ってコーヒーをすすっている。もしや、と真島は思った。 「もしかしてこれ、ホワイトデーだからってことですか?」  今日は、三月十四日だ。 「でもそれなら、俺だってもらったのに。おまけに、修一さんが女たちからもらった分まで」  あの後真島は、二キロ増量した。現在は、こっそりジョギングに専念している。 「そうだっけ?」  如月は、首をかしげた。 「あいにく僕は、イベントには関心が無いからね」  そう言う彼の瞳には、悪戯っぽい微笑が宿っていて。けれど、そうだと確信できた。 (『ホワイトデー』と言うと、お互い交換したのにってなるから? だから、気を遣わせまいと思って……?)  イベントには、関心が無いくせに。ちゃんと覚えていたばかりか、こんな細かい演出まで。じわりと、胸が熱くなる。それを隠そうと、真島はパクパクとデザート類を口に運んだ。如月は、そんな真島を楽しげに眺めていたが、ふと声を落として 「上、部屋を取ってあるから」  と囁いたのだった。 ほわいとでー・了 <『知らなかったんだもん』をお読みいただいた方へ。おまけ> 真島「なあ~、三枝。ホワイトデーのお返しって、何がいいと思う? (結局、俺だけもらったことになるもんな。俺も何かしなくちゃ)」 三枝(ホワイトデーにお返し!? やっぱり真島って攻なんだな) 真島「あ、悪いな。何か、聞いてばっかりで」 三枝「いや、いいけど……(しかし攻の立場なら、何で悠人さんに聞かないんだろ? ま~、社長には聞きづらいか)じゃあ、俺からアドバイスとしては……」 誤解はまだまだ解けない模様。

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