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第3話
「すみません。修一さんの焦り顔って、レアだから」
けろりとそう言った後、真島はふと真面目な顔になった。
「でもね。もう気を回さないでください。もう元彼の話題とか、気にしませんから」
「……そうなの?」
はい、と真島は頷いた。
「そりゃ前は、結構妬いてましたけど。でもそういうの、いい加減大人気ないよなって思うようになって。だから本当に、気を遣わなくて大丈夫ですから」
そう語る真島の眼差しは真摯で、如月はふと微笑んでいた。
「そう。じゃあ、遠慮無く教えてあげる。一局打ってみる?」
「いいんですか!?」
真島は目を輝かせたが、少し不安そうな顔もした。
「あ~、でも。いきなり打てるのかな?」
「ルールは覚えたんだよね? なら後は、実践あるのみ。碁盤なら、あるから」
如月は寝室に向かうと、クローゼットを開けた。折りたたみ式の簡易なものなら、今でも持っているのだ。大学卒業後も、浅野とはたまに打った。別れて以降は、しまい込んだきりだったけれど。
「よし、じゃあやってみようか」
リビングに簡易碁盤を持って来ると、如月はテーブルに広げた。真島が、興味津々といった様子で身を乗り出す。基本事項を確認すると、二人は対局を開始した。
(うん。基本は、しっかりマスターしているようですね)
真島の様子を観察しつつ、如月は内心頷いた。碁石の持ち方は不慣れなものの、ちゃんと的確な場所に置いている。安心しながら進めていた、その時だった。
「……ん?」
如月は、思わず声を発していた。真島が、思いがけない所に石を置いたからだ。
「あ、今のは何となくです。ここに置いたら面白そうかなって。直感、的な?」
真島が、恥ずかしそうに頭を掻く。いやいや、と如月はかぶりを振っていた。
「これは、ユニークな発想だよ。……蒼君。君、碁の才能あるかもね」
同時に、如月は思っていた。浅野にあって自分に足りなかったものは、これだったのかもしれない、と。
(たまには、直感に従った行動もいいかもしれませんね……)
如月は、改めて思っていた。自分が真島に惹かれた理由は、きっとそれだ。自分に無いものを、彼は持っている……。
「今の取引が終わった後も、続けてみたら? 碁。蒼君なら、きっと伸びるよ」
「いえ、せっかくですけど」
真島は、きっぱりとかぶりを振った。
「俺の性格からして、その頃には飽きてると思うんで」
はあ、と如月はため息をついていた。これだから、真島は猫と言われるのだ。気まぐれ過ぎる。
(まあ、そこが可愛いんですけどね……)
「休憩しようか。ココア、お代わり入れるよ」
言いながら、如月は席を立っていた。自分が飲んだわけでも無いのに、何だか心が温まるのを感じながら。
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