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第3話
「役員会議でも、君の話題を振られたよ」
その日の午後、社長室で二人になると、蓮見は苦笑気味に言った。
「佐々木常務が、興味津々で話しかけてこられてね。これまで浮いた噂の無かった如月君の相手とは、一体誰かって」
「一介の秘書がそこまで注目していただけるとは、光栄ですね」
如月は、しれっと答えた。
「ですが、社長にご迷惑をおかけしたのは、私の手落ち。すぐにでも、外すとしましょう」
「今さら外したところで、広がった噂は止まらんだろう」
蓮見は、くっくっと笑った。どうやら、面白がっているらしい。
「僕なら、迷惑だなんて思っていないから、気にしなくてよろしい。どうせ、猫がまた手を焼かせたんだろう」
「仰る通りです」
ため息交じりに頷いた後、如月は蓮見の目を見つめた。
「質問攻めの件は、寛大にもお許しいただき、ありがたいのですが……。私には他にも、社長に謝るべきことがあります」
「一体、何だい?」
蓮見が、怪訝そうな顔をする。如月は、一呼吸置いてから告げた。
「私はこの指輪を、生半可な気持ちで着けて来たわけではありません。真島君との仲は、いずれ社内で公表するつもりです。社長のご許可を得る前に、それを実行に移したこと、私は心から謝罪しなければなりません」
「僕の許可など、気にすることはないだろう。君らのプライベートだ」
蓮見は優しく答えたが、如月はかぶりを振った。
「いえ。私が申し上げたいのは……、私たちの関係を公にすれば、社長の『隠れ蓑』が無くなってしまうということです」
瞬時に意味を理解したらしく、蓮見の表情は一転深刻になった。以前週刊誌で騒がれて以来、蓮見がゲイだという疑惑は、根強く残っている。中には、如月が相手だと想像する者もいた。BL好きな女子社員たちによる妄想がほとんどだが、真剣に邪推している者もいる。如月は、あえてそれを否定せずに今まできた。ひとえに、蓮見と三枝を守るためである。
「構わないよ」
数秒の後、蓮見は静かに答えた。
「その手法では、僕が社長でいる限り、如月君は永久に誰とも恋愛や結婚をできなくなってしまう。如月君は、僕の大切な秘書だ。君の幸福を握りつぶすことは、僕の本意ではない」
蓮見の言葉には、思いやりと愛情があふれていた。一瞬、胸がじんと熱くなる。如月は、深々と頭を下げていた。
「事後報告にもかかわらず、温かいお言葉をありがとうございます」
「頭を上げてくれ。本当に、気にする必要は無いから」
蓮見の声音は、あくまでも穏やかだった。
「翔馬との仲は、僕が自分で責任を持って隠し通す。むしろ今までが、君に甘えすぎていたんだ……。ところで」
ようやく頭を上げた如月に向かって、蓮見はにやりと笑った。
「君と飼い猫が無事ゴールインした暁には、僕には少々考えている計画がある」
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