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第9話

「それは、真島君に質問すべきことですね。言い出したのは、彼なんだから」  三枝に当たるべきではないとわかっているが、如月は、ぶっきらぼうな口調になるのを抑えられなかった。 「でも……。真島は如月さんのこと、心から愛してると思います」  三枝が、力強く語る。その眼差しは、真摯だった。 「同期で同じ部署だから、よくわかるんです。あいつは元々、仕事には一生懸命な奴だったけど、如月さんと付き合うようになってから、ますます熱を入れるようになりました。のろけ話も、たくさん聞かされましたよ」  それを今聞かされるのは、ある意味残酷だな、と如月は思った。だが、必死に言葉をつむいでいる三枝を見ていると、遮るのはためらわれた。 「指輪をもらった時なんか、もう朝から挙動不審でしたよ。後で聞いたんですけど、如月さんに口止めされてたんですよね? でも言いたくて仕方ないって感じで。用も無いのに僕の席に何度もやって来て。あげく、めちゃくちゃわざとらしく落っことすんです。羨ましいくらい、幸せそうでした」 「深い意味も無く、受け取ったみたいですけどね」  如月は、ぽつりと言った。ふるふる、と三枝がかぶりを振る。 「真島は如月さんのこと、軽く考えてはいません! どうでもいい相手だったら、あんなに嫉妬しないですよ。真島は、如月さんの周囲の女性たちや、元彼とかのこと、年がら年中意識してました。僕にまで、ヤキモチ焼くんですよ」 「三枝君に?」  如月は、意外に思った。はい、と三枝が苦笑気味に頷く。   「悠人さんのNY滞在中に、僕に惣菜を持って来てくれたって話。あれをうっかり喋った後、なぜか僕の机にあったコーヒーが、苦手なブラックにすり替わってましてね。それも、超苦いやつ。真島、それを見て、してやったりって顔してました」 「……子供ですか」  如月は、思わず呟いていた。三枝も、ため息をつく。 「まー、それだけ如月さんを大好きなんだろうなって思いましたけど。それでですね。僕なりに、考えんですよ。どうしてそれほど好きな人に、真島は別れを告げたんだろうって。それで、ハッと思い出しました」  三枝は、身を乗り出した。 「真島、最近こんな話をしてたんです。あいつの友達の会社に、付き合っているゲイのカップルがいたそうなんです。片方はゲイを公言してたけど、もう片方は隠していて。それで……」  その時だった。玄関の方で、ガチャ、という音がした。如月は、おやと思った。三枝を家に上げた後、施錠をしたはずだが。つまり入って来れるのは、合鍵を持つ人間……。

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