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第13話
「三枝君。今さらだけど、冷やしておきましょう」
如月は、キッチンへと向かった。すると、真島が追いかけて来た。
「手当てなら、俺がやります。俺がやったことですし!」
言いながら真島は、素早く冷凍庫を開け、氷を取り出している。やれやれ、と如月は肩をすくめた。責任感というよりは、嫉妬だろう。彼は、如月が他の人間に構うのを極端に嫌がるのだ。
(早速、復活ですか……)
微笑ましい気もするが、今はそれどころではない。冷静に考えると、かなり大きな問題が生じているのだ。
「あのですね、三枝君」
ダイニングに戻ると、如月は恐る恐る切り出した。
「さっきのビンタについては、社長には伏せておいていただけますかねえ。できる限りのお詫びはしますから」
三枝を傷つけたとなったら、蓮見は激怒することだろう。せっかく何もかも順調に行きそうな今、それだけが気がかりだった。
(結婚休暇で旅行に行った暁には、三枝君には、莫大な量のお土産を買って来ないといけませんねえ……)
「はい、適当に誤魔化します」
三枝はけろっと答えたが、如月はまだ不安だった。『適当に誤魔化せる』性格なら、三枝はこれまで、蓮見に数々のお仕置きを受けてはいないだろう。
「頼みますよ? 逆上して、また蒼君に地方勤務を命じるなどと仰ったら……。私たちは離ればなれになっちゃいますから」
念を押しながら、如月は思い直した。
「いえ、やはり言い訳については、私が考えましょう。社長には、その通りにお話しくださいね」
そこへ、布で氷袋を作った真島が戻って来た。
「その言い訳作り、俺も加わらせてください!」
あくまでも、如月と三枝が二人で話し込むのが気に入らないらしい。真島の果てしない嫉妬心にややうんざりしつつも、如月はそれを、どこか嬉しく感じたのだった。
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