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第14話
その翌日、如月はやや緊張しながら、社長室へと入室した。
「おお、如月君。翔馬から聞いたよ。無事、猫と仲直りできたそうで、よかったじゃないか?」
昨夜のうちに、蓮見には簡単なメール報告をしていたが、三枝は詳しく話したようだった。
「ご心配をおかけしまして、申し訳ございませんでした」
「いやいや、何よりだ……。ところで」
蓮見は、如月をじろりと見た。
「翔馬の、頬の怪我の件だが」
如月は、身構えた。結局三枝には、『合鍵を返しに来た真島と口論するうち、如月がカッとなって手を上げかけた。三枝は真島を守ろうとして間に入り、結果、彼の頬に当たってしまった』という説明をさせたのだ。
『外で、喧嘩に巻き込まれたとか?』
『転んだとか』
真島と三枝はそんな案を出したが、如月は却下した。真実とかけ離れた嘘というのは、バレやすいものだ。少しだけ真実を混ぜるのがコツだと、聞いたことがある。
「偶然とはいえ三枝君を巻き込んでしまい、大変申し訳ございませんでした」
如月は深々と頭を下げたが、蓮見の表情は硬かった。
「君に話を聞きに行くのは僕も賛成したんだから、それはいい。ただ翔馬の説明は、どうも腑に落ちないんだ。第一に、他人の喧嘩に割って入れるほど、翔馬は敏捷ではない」
「彼は、私たちのために必死でしたから……」
「第二に」
蓮見は、如月の言葉を遮った。
「如月君は、どんなに逆上したとしても、人に手を上げる性格では無いだろう」
「買いかぶりすぎですよ」
「そうかな」
蓮見は、皮肉っぽく微笑んだ。
「冷静に考えて、暴力に走りやすいのは真島君の方だろう。君は恋人を庇ったつもりだろうが、裏目に出たな」
「……」
蓮見の瞳は何もかも見通しているようで、如月は返答に詰まった。
「まあとにかく。故意にせよ過失にせよ、真島君が暴力行為に及んだのは事実、と。そういう社員を放置するわけにはいかないねえ。何らかの処分を……」
「彼に転勤をお命じになるのであれば、私も異動願いを出すといたしましょう」
如月は、間髪入れずに宣言していた。
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